寒い、暗い。
頭がズキズキして意識が朦朧とする。
あれ?私、何して。
あれから白夜様とお店を出て一緒に帰る途中で。
目が覚めれば暗いコンクリート状の床の上に倒れていた。辺りは何も無く、ひんやりとした空気にポタリと雨漏りが滴る音。
「ここは何処?」
「よお、起きたか嬢ちゃん」
「!」
暗闇の中でそう呼び掛けた声。
それは段々と私の方へ近づいて来る。
一人?いやもっといる。
ズラズラと大きな影を成して暗闇から出てきた者達の正体。
「悪いが嬢ちゃんにはひとっぱたらきしてもらうぜ」
「貴方達は誰⁉」
「俺達は人身売買を生業にしているもんだ。嬢ちゃん、あんた人間だろ?人間なんざ滅多にお目にかかれない目玉商品。あんたさえ売れば大儲け間違いなしだ」
「頼まれた時は本当に人間か疑いもしたが。まさか本当にこの目で人間をお目にかかれるとは!しかも若い女だ。新鮮な肉はうめぇ」
「ヒッ」
大きな体に背丈は自分の二倍はありそうな妖達が私を囲むように見下ろしていた。
普段は鬼頭家のお屋敷から出ることがない。
こんな大きな妖を間近で見たのは初めてで体は恐怖で震えだす。
「ばか、食うんじゃねぇよ。コイツは大富豪向けの冥土品だ。出荷までは丁重に扱え」
「なんだよ、人間なんざ滅多に見れねぇ商品だぞ?少しぐらい味見したとこでバレやしねぇよ」
一人はそう言い私の着物へ手を伸ばしてくる。
「いや!触らないで!」
手をかけられた瞬間、ごつごつとしたその手をはたきおとす。
「チッ、手癖悪ぃな」
「テメェは俺達に売られたんだ。今更叫んだところで誰も助けなんざ来やしねぇよ。諦めろ」
妖達は私の胸元を掴めば乱暴に着物を横へおし広げた。
「いや、嫌だ!お願いやめて!!」
怖い、早くここから逃げなければ。
だが足は恐怖ですくみ動かない。
お願いだから動いて。
だが恐怖が勝ってしまい、体は思うように動かない。
その間にも妖達の手が迫ってくる。
「(嫌だ、誰か…。お願い、誰か助けて!)」
私に触らないで!
怖い、誰か、誰か…。
ふと、私の頭をよぎった一人の人物。
「白夜様、白夜様、助けて!!」
ただ只管に彼の名前を叫んだ。
お願い、私はここに居る。
お願いだから助けて!!
「白夜様!白夜様!」
ーードガッ!!
「「「!!」」」
「!」
「おい、大丈夫か!」
刹那、激しい音と共に鉄製の扉が壊れた。
砂ぼこりが立てば、扉を蹴破るようにして中に入ってきた人物。ゆっくりと音のした方を見てみれば、そこにいた彼の姿に体の力が抜けていく。
「白夜様…」
「て、てめぇは鬼頭家の!」
「純血の鬼神が何故ここに⁈」
白夜様が来るとは思ってもみなかったのか、妖達は彼の存在に驚きが隠せないようだった。
白夜様は着物が少しはだけた様子の私を視界に捉えるとその瞳を見開いた。だが次の瞬間、その身体からは強い妖力の灯を放ち出す。
「おいてめぇら…。なーに人のもん手出してくれてんだ?当然、殺される覚悟は出来てんだろうなぁ??」
激昂に満ちた顔でじりじりとこちらへ向かってくる。
そんな彼の気配には妖達も恐怖で震え上がった。
「ま、待ってくれ!コイツがあんたのもんだとは知らなかったんだ!!」
「俺達はただ頼まれただけで!!」
「あ?知らねぇーよ。おい、こいつら連れてけ」
白夜様が外に声を掛けると待機していた鬼頭家の護衛達が数人入って来る。暴れだす妖達を押さえつけると外へと連れ出してしまった。
「大丈夫か⁈」
白夜様は私の元へ駆け寄ると慌てて安否を確認する。
「怪我は…ねぇな。はぁ」
何処か安心した様子でほっと溜息をつく。
そして私の首元へ顔をうずめればギュッと私を抱きしめた。
「え、あ、あの//」
え、白夜様が私を…抱きしめている?
突然の行為に驚けば、情報処理が追いつかず半ば放心状態と化す。
「急に居なくなった時はすんげぇ心配した。さっきの件があってからのこれは流石の俺も身が持たねぇって。でも…お前が無事で良かった」
「!…ご心配をおかけしました」
こんなにも弱々しい姿は初めて見た。
私を抱きしめてはいるが心なしか体は震えている。
その白い髪に触れてみれば、思いのほかふわふわしていた。
「(あ、なんか癖になりそう)」
白夜様の頭を撫でれば、彼はぐりぐりと頭を押し付けてくる。
ん?これはもしや甘えているのか?
暫くすると満足したのか彼は顔を上げた。
自身の着ていた羽織かけを私の肩にかければ、そのまま立たせてくれる。
「船に戻るぞ。歩けるか?」
「大丈夫です。あの、白夜様」
「あ?」
「その…。助けに来てくれてありがとうございました」
「嫁なんだから助けるのは当然だろ。ほら、早く出るぞ」
白夜様はそう言って私の手をとり歩き出す。
怖かった、もし白夜様が助けに来てくれなかったら今頃…。
でも彼は私を助けに来てくれた。
本当に嬉しかった。
私、やっぱり貴方の花嫁になれて良かったです。
安心感を覚えれば顔がほころぶ。
私の手を握る大きな背中を見つめれば、同じようにその手を握り返した。
頭がズキズキして意識が朦朧とする。
あれ?私、何して。
あれから白夜様とお店を出て一緒に帰る途中で。
目が覚めれば暗いコンクリート状の床の上に倒れていた。辺りは何も無く、ひんやりとした空気にポタリと雨漏りが滴る音。
「ここは何処?」
「よお、起きたか嬢ちゃん」
「!」
暗闇の中でそう呼び掛けた声。
それは段々と私の方へ近づいて来る。
一人?いやもっといる。
ズラズラと大きな影を成して暗闇から出てきた者達の正体。
「悪いが嬢ちゃんにはひとっぱたらきしてもらうぜ」
「貴方達は誰⁉」
「俺達は人身売買を生業にしているもんだ。嬢ちゃん、あんた人間だろ?人間なんざ滅多にお目にかかれない目玉商品。あんたさえ売れば大儲け間違いなしだ」
「頼まれた時は本当に人間か疑いもしたが。まさか本当にこの目で人間をお目にかかれるとは!しかも若い女だ。新鮮な肉はうめぇ」
「ヒッ」
大きな体に背丈は自分の二倍はありそうな妖達が私を囲むように見下ろしていた。
普段は鬼頭家のお屋敷から出ることがない。
こんな大きな妖を間近で見たのは初めてで体は恐怖で震えだす。
「ばか、食うんじゃねぇよ。コイツは大富豪向けの冥土品だ。出荷までは丁重に扱え」
「なんだよ、人間なんざ滅多に見れねぇ商品だぞ?少しぐらい味見したとこでバレやしねぇよ」
一人はそう言い私の着物へ手を伸ばしてくる。
「いや!触らないで!」
手をかけられた瞬間、ごつごつとしたその手をはたきおとす。
「チッ、手癖悪ぃな」
「テメェは俺達に売られたんだ。今更叫んだところで誰も助けなんざ来やしねぇよ。諦めろ」
妖達は私の胸元を掴めば乱暴に着物を横へおし広げた。
「いや、嫌だ!お願いやめて!!」
怖い、早くここから逃げなければ。
だが足は恐怖ですくみ動かない。
お願いだから動いて。
だが恐怖が勝ってしまい、体は思うように動かない。
その間にも妖達の手が迫ってくる。
「(嫌だ、誰か…。お願い、誰か助けて!)」
私に触らないで!
怖い、誰か、誰か…。
ふと、私の頭をよぎった一人の人物。
「白夜様、白夜様、助けて!!」
ただ只管に彼の名前を叫んだ。
お願い、私はここに居る。
お願いだから助けて!!
「白夜様!白夜様!」
ーードガッ!!
「「「!!」」」
「!」
「おい、大丈夫か!」
刹那、激しい音と共に鉄製の扉が壊れた。
砂ぼこりが立てば、扉を蹴破るようにして中に入ってきた人物。ゆっくりと音のした方を見てみれば、そこにいた彼の姿に体の力が抜けていく。
「白夜様…」
「て、てめぇは鬼頭家の!」
「純血の鬼神が何故ここに⁈」
白夜様が来るとは思ってもみなかったのか、妖達は彼の存在に驚きが隠せないようだった。
白夜様は着物が少しはだけた様子の私を視界に捉えるとその瞳を見開いた。だが次の瞬間、その身体からは強い妖力の灯を放ち出す。
「おいてめぇら…。なーに人のもん手出してくれてんだ?当然、殺される覚悟は出来てんだろうなぁ??」
激昂に満ちた顔でじりじりとこちらへ向かってくる。
そんな彼の気配には妖達も恐怖で震え上がった。
「ま、待ってくれ!コイツがあんたのもんだとは知らなかったんだ!!」
「俺達はただ頼まれただけで!!」
「あ?知らねぇーよ。おい、こいつら連れてけ」
白夜様が外に声を掛けると待機していた鬼頭家の護衛達が数人入って来る。暴れだす妖達を押さえつけると外へと連れ出してしまった。
「大丈夫か⁈」
白夜様は私の元へ駆け寄ると慌てて安否を確認する。
「怪我は…ねぇな。はぁ」
何処か安心した様子でほっと溜息をつく。
そして私の首元へ顔をうずめればギュッと私を抱きしめた。
「え、あ、あの//」
え、白夜様が私を…抱きしめている?
突然の行為に驚けば、情報処理が追いつかず半ば放心状態と化す。
「急に居なくなった時はすんげぇ心配した。さっきの件があってからのこれは流石の俺も身が持たねぇって。でも…お前が無事で良かった」
「!…ご心配をおかけしました」
こんなにも弱々しい姿は初めて見た。
私を抱きしめてはいるが心なしか体は震えている。
その白い髪に触れてみれば、思いのほかふわふわしていた。
「(あ、なんか癖になりそう)」
白夜様の頭を撫でれば、彼はぐりぐりと頭を押し付けてくる。
ん?これはもしや甘えているのか?
暫くすると満足したのか彼は顔を上げた。
自身の着ていた羽織かけを私の肩にかければ、そのまま立たせてくれる。
「船に戻るぞ。歩けるか?」
「大丈夫です。あの、白夜様」
「あ?」
「その…。助けに来てくれてありがとうございました」
「嫁なんだから助けるのは当然だろ。ほら、早く出るぞ」
白夜様はそう言って私の手をとり歩き出す。
怖かった、もし白夜様が助けに来てくれなかったら今頃…。
でも彼は私を助けに来てくれた。
本当に嬉しかった。
私、やっぱり貴方の花嫁になれて良かったです。
安心感を覚えれば顔がほころぶ。
私の手を握る大きな背中を見つめれば、同じようにその手を握り返した。