妖都の事件から数日たったある日。
「え、お翠さんが⁈」
昼過ぎ、お香から聞いた話に時雨は耳を疑った。
「お翠さんが私を襲った…本当なんですか?」
「はい…何でも時雨様が若様とお出かけになられた日にこっそり後をつけてたみたいで。罪人達が言うにはあの日のことは全部お翠様に命令されたとのことでした」
「そんな、、、どうして」
確かに彼女は自分に対し良い印象を持っていない。
ここに来た当初から。
それに対する時雨への当たりは一段ときつかったし、勇気を出して話しかけようにも睨まれてしまえば一歩も進展がないままだった。でもまさか襲った犯人達を裏で動かしていたのがお翠本人だったとは。時雨は心が悲しみで苦しくなった。
「お翠さんは今どこに?」
「今頃は当主様による詰問の真っ最中です」
△▼△
無駄に広い大広間。
鎮座する深夜と傍ら席に座る白夜。
二人の目線の先、下座の畳上では頭を下げてブルブルと震えるお翠の姿があった。
「それで?お前は何も覚えてないと」
重い顔をして問う深夜の言葉は下位の妖にとってはこの上なく恐ろしいものだった。普段は穏やかな深夜が表向きでここまで顔を暗くさせるのは何年ぶりだろうか。大広間から漏れ出る重い空気に何かを察した使用人達は近づけずにいた。
「わ、私はただ、、白夜様が心配で」
「答えになってねぇんだよ。俺が心配?だから俺のもんでも殺そうと?」
苛立ちを隠しきれない白夜はギロリとお翠を睨みつける。
それにはバッとお翠が顔を上げた。
「ち、違います!私はただ命令されて」
「あ?命令された?だから言う通りにアイツを襲ったのかよ!」
「申し訳ありません!」
「謝って済む問題か!!」
そんな様子に更に怒りを覚えた白夜。
そんな様子を深夜が静かに制した。
「白夜、少し落ち着け」
「落ち着けるかよ!直接でないとはいえ、コイツは俺のもんに手出したんだ。俺の婚約者に手を出すということは鬼頭家を裏切ったも同然。三大妖家を裏切る行為が何を意味するか…」
妖家の花嫁に手を出した。
それは鬼頭家でいえばその家に背くと言える行為。
時雨に手を出した。
それはつまり白夜、並びに鬼頭家の存在を否定するということ。
白夜の存在を否定し、現在その弱点となる花嫁に手を出す行為こそ強ち妖家を陥れる上ではありがちな話ではある。だが深夜には引っ掛かる点があった。
「お翠。お前はあの日、誰に時雨さんを誘拐するよう命じられた」
確信に迫るような問いかけにお翠が反応する。
「ご当主様、何故……」
「あの日、時雨さんは誘拐された。だがその残影からはお前の妖力を一切たりとも感じられなかった。それがどういう事か分かるか?彼女を連れ去るのに別の要因が絡んだということだ」
護衛番には犯人の真相を突き止めさせた。
だが現場に残った残影にはお翠の妖力おろか、全く身に覚えのない術が摘出されていた。
「幻惑の妖術。あれはお前如き下位の妖に使いこなせる技ではない。実に高度…使いこなせるのは隠世でもあの方を除いてごく一部の者のみ。果たして主犯はお前一人と言えようか」
「ッ、わ、私は…」
お翠は俯き何も言えなくなってしまう。
「黙ってねぇでさっさと答えろ。お前は一体、誰に命令されてあの術を借りた訳?」
しびれを切らした白夜。
二つの妖力は段々と威力を増していく。
白夜なんて見れたもんじゃない。
ドロドロに濃い妖力が体から溢れ、それを抑えることをわざとしない辺り、まさしくそれは威嚇と相手への脅しにも捉えられる。下位の妖であれば失神していたとこであろう。だがお翠は失神するわけにはいかないと、なんとか理性を保ち続けていた。
「…わ、分からないのです」
「あ゛ぁ゛?」
「ヒィ、、わ、私に声を掛けてきた相手はフードを被っていました。あの時はあの女のことで頭が一杯だったし。何も疑わず口車にのせられ、気づいたら後のことは何も覚えていませんでした」
「ほお…それで罪人達に彼女を引き渡したと?」
「も、申し訳ありません!!!」
深夜は顔を顰めた。
お翠は恐ろしさで震えながら何度も頭を下げた。
だが深夜はこれ以上は何も得られないと結論付けたのか立ち上がる。
「お翠、お前にはガッカリした」
「!!」
「大体の事情はこれで把握した。後日、こちらからの処遇が決まるまで。お前には部屋での謹慎を命ずる」
深夜はそう言い放つと広間を後にする。
「ああ…そんな、、ご当主様」
お翠は絶望の顔でその場に崩れ落ちてしまった。
「…チッ」
白夜はその様子を一瞥すれば納得はいかなかったが、深夜に続いて大広間を後にした。
「え、お翠さんが⁈」
昼過ぎ、お香から聞いた話に時雨は耳を疑った。
「お翠さんが私を襲った…本当なんですか?」
「はい…何でも時雨様が若様とお出かけになられた日にこっそり後をつけてたみたいで。罪人達が言うにはあの日のことは全部お翠様に命令されたとのことでした」
「そんな、、、どうして」
確かに彼女は自分に対し良い印象を持っていない。
ここに来た当初から。
それに対する時雨への当たりは一段ときつかったし、勇気を出して話しかけようにも睨まれてしまえば一歩も進展がないままだった。でもまさか襲った犯人達を裏で動かしていたのがお翠本人だったとは。時雨は心が悲しみで苦しくなった。
「お翠さんは今どこに?」
「今頃は当主様による詰問の真っ最中です」
△▼△
無駄に広い大広間。
鎮座する深夜と傍ら席に座る白夜。
二人の目線の先、下座の畳上では頭を下げてブルブルと震えるお翠の姿があった。
「それで?お前は何も覚えてないと」
重い顔をして問う深夜の言葉は下位の妖にとってはこの上なく恐ろしいものだった。普段は穏やかな深夜が表向きでここまで顔を暗くさせるのは何年ぶりだろうか。大広間から漏れ出る重い空気に何かを察した使用人達は近づけずにいた。
「わ、私はただ、、白夜様が心配で」
「答えになってねぇんだよ。俺が心配?だから俺のもんでも殺そうと?」
苛立ちを隠しきれない白夜はギロリとお翠を睨みつける。
それにはバッとお翠が顔を上げた。
「ち、違います!私はただ命令されて」
「あ?命令された?だから言う通りにアイツを襲ったのかよ!」
「申し訳ありません!」
「謝って済む問題か!!」
そんな様子に更に怒りを覚えた白夜。
そんな様子を深夜が静かに制した。
「白夜、少し落ち着け」
「落ち着けるかよ!直接でないとはいえ、コイツは俺のもんに手出したんだ。俺の婚約者に手を出すということは鬼頭家を裏切ったも同然。三大妖家を裏切る行為が何を意味するか…」
妖家の花嫁に手を出した。
それは鬼頭家でいえばその家に背くと言える行為。
時雨に手を出した。
それはつまり白夜、並びに鬼頭家の存在を否定するということ。
白夜の存在を否定し、現在その弱点となる花嫁に手を出す行為こそ強ち妖家を陥れる上ではありがちな話ではある。だが深夜には引っ掛かる点があった。
「お翠。お前はあの日、誰に時雨さんを誘拐するよう命じられた」
確信に迫るような問いかけにお翠が反応する。
「ご当主様、何故……」
「あの日、時雨さんは誘拐された。だがその残影からはお前の妖力を一切たりとも感じられなかった。それがどういう事か分かるか?彼女を連れ去るのに別の要因が絡んだということだ」
護衛番には犯人の真相を突き止めさせた。
だが現場に残った残影にはお翠の妖力おろか、全く身に覚えのない術が摘出されていた。
「幻惑の妖術。あれはお前如き下位の妖に使いこなせる技ではない。実に高度…使いこなせるのは隠世でもあの方を除いてごく一部の者のみ。果たして主犯はお前一人と言えようか」
「ッ、わ、私は…」
お翠は俯き何も言えなくなってしまう。
「黙ってねぇでさっさと答えろ。お前は一体、誰に命令されてあの術を借りた訳?」
しびれを切らした白夜。
二つの妖力は段々と威力を増していく。
白夜なんて見れたもんじゃない。
ドロドロに濃い妖力が体から溢れ、それを抑えることをわざとしない辺り、まさしくそれは威嚇と相手への脅しにも捉えられる。下位の妖であれば失神していたとこであろう。だがお翠は失神するわけにはいかないと、なんとか理性を保ち続けていた。
「…わ、分からないのです」
「あ゛ぁ゛?」
「ヒィ、、わ、私に声を掛けてきた相手はフードを被っていました。あの時はあの女のことで頭が一杯だったし。何も疑わず口車にのせられ、気づいたら後のことは何も覚えていませんでした」
「ほお…それで罪人達に彼女を引き渡したと?」
「も、申し訳ありません!!!」
深夜は顔を顰めた。
お翠は恐ろしさで震えながら何度も頭を下げた。
だが深夜はこれ以上は何も得られないと結論付けたのか立ち上がる。
「お翠、お前にはガッカリした」
「!!」
「大体の事情はこれで把握した。後日、こちらからの処遇が決まるまで。お前には部屋での謹慎を命ずる」
深夜はそう言い放つと広間を後にする。
「ああ…そんな、、ご当主様」
お翠は絶望の顔でその場に崩れ落ちてしまった。
「…チッ」
白夜はその様子を一瞥すれば納得はいかなかったが、深夜に続いて大広間を後にした。



