結論から言えばあの後のご飯は美味しかった。
お京さんはその後の私達の様子を察し、料理の提供を暫く控えて下さったみたい。
それを聞いた時、流石はプロ意識が神がかっていると思った。出てきた懐石料理はとても美味しかった。
今でしか味わえない旬のお魚とか。お刺身の盛り合わせとかが絶品だったからまた食べに行きたい。
「次に来た時、もう一遍仕切り直すぞ」
店を出て早々、白夜様はそう告げる。
「また来ていいんですか⁈」
「は?いいに決まってんだろ。お前は俺の嫁だろうが」
空船の停留所まで歩いて行く途中、私がした質問に対し白夜様は呆れてそう答えた。
嫁って言われるのはまだ慣れなくて。
ちょっと恥ずかしい気もするけど。
「で、ではまた今度、白夜様と一緒に行きたいです」
「おう」
外はまだ賑やかで、どのお店からも妖達の声が漏れ出ている。余談だがあのお店の店名由来を聞いたみた。
それは亭主さんが創建当初、店名をことわざが入った箱から引いた言葉に決めると言いだしたそう。
それで引かれた名前があれだったらしい。
いや、それもどうかとは思うが。
「他に寄りてぇとこある?」
「いえ、もう十分に楽しめました」
「じゃあこれで戻るぞ。妖都は夜が一番危ねぇから離れんなよ」
私に声を掛けて歩き出す白夜様の後ろ姿を眺める。
異能がなくても関係ねぇ。
今回そう言って下さったことがとってどれだけ救いになったことか。
とても怖かった。
私の本性が知られたらと思うと毎日が怖くてたまらなかったから。
私の存在が全てを変えてしまうのではないかって。
でも白夜様はそんな私でもいいと言って下さった。
例え異能が無くても私を責めることなく側に居ろと仰って下さった。
それだけで私の心は幸せに満たされていった。
うん、私も貴方の側に居たい。
「(ありがとうございます、白夜様)」
その背中にそっと言葉を投げかけて後を追うように足を進めた。

——リン!

「え?ここ…何処?」
鈴の音が聞こえる。
気がつくと暗い空間に一人佇んていた。
あれ?
私、今、白夜様と一緒に…。
「白夜様?白夜様!どこですか!」
呼んでも返事はない。
それどころか誰の声も聞こえない。
…何だろう。
なんかもの凄くフラフラして意識が朦朧としてきた。
「…あんたさえ居なければ」
真っ暗な空間から聞こえてきた声を最後に私はその意識を手放した。

○○●
「は?」
何が起こった?
アイツはたった今、俺の後ろをついて一緒に歩いていたはずだ。
なのになんで…。
「なんでアイツがいねぇの?」
—シャ~
「!お前…」
俺の足元にはアイツが契約した蛇しかいない。
子供とはいえコイツは神獣。
よっぽどのことが無い限りは契約者であるアイツからは離れることはまず不可能。
そのコイツが離れたとなると…
「幻術」
コイツの力はまだ弱い。
あいつを加護で邪気から守るのに精一杯。
なら考えるべきはコイツの力を現時点で超えることが出来る強い妖力持ちの相手。
「は、なめやがって。この俺を誑かそうなんざ千年早ぇんだよ」
俺は瞳に全意識を集中させるとアイツがいた場所から漏れ出る気配の塊を探る。
思い当たる節は幾つかあるが今はそれどころじゃねぇ。
「妖力を透視することぐれぇ、この俺様になら造作もねぇつーんだよ馬鹿が」
数秒もすれば連れて行かれた経路が読み取れた。
「…ん?沖合側に向かってんな。つーか、この妖力の気配はどっかで」
俺は蛇を掴むと沖合に向かって走り出した。