白鬼の封印師

その言葉は時雨の心を貫いた。
綺麗な瞳は揺らぐことなくこちらを捉えて離さない。

「会ったばっかで冷たくしちゃったこと悪かった。それでもお前を見てるとどうしようもなく愛おしく感じる」
「ッ、、どうして」
「変だよな俺(笑)。お前と契約してからずっとこんな調子なんだ。分かんねぇ……分かんねぇんだよ。でもどうしようもなくお前が頭から離れなくなって…それで気づいたら気になっていた」

白夜はやや顔を赤らめ時雨を見つめる。
何度も違うと自分に言い聞かせてきた。
この波打つ感情にイラつき原因も分からずにいたが、やがてそれが恋慕だと知った。

「お前が好きだ。だからもう、今更お前を手離せねぇよ。俺のものになれ」

その言葉で一気に時雨は顔に熱が籠ったのを感じた。
今、彼は私を好きだと言った。
驚いて声も出ない。
反対に体がどんどん熱くなっていく。
きっと顔は真っ赤だろう。
白夜はそんな時雨をジッと見つめていた。
ドクンと心臓が波打つ。
初めて抱くこの感情は何?
胸が苦しいほどに締め付けられる。
呼吸が上手く出来ない。
でも何故だろう…不思議とそれが嫌ではなかった。
誰かに好きと言われたことはない。
どうしたらいいか分からなくて固まってしまう。

「初めこそ単なる好奇心材料でしかなかった。でもお前を知るほどやっぱり他の奴とは何もかもが違くて新鮮だった。初めてこんなに心が揺れ動いた。そんで気づいたらお前のことしか考えられなかった」
「…白夜様」
「これが好きという感情なら俺はそれを素直に認める。異能なんかなくていい。俺が側にいてやる。ずっと愛してやる。だから頼む、頼むから…。そんな全てを諦めた顔なんかすんな」
「!」

その言葉にハッとした。
ああ、そうか。
私はきっと…諦めてたんだ。
何もかも最初から全部。
自分の言ったことに噓はない。
それは確かな筈なのに…それでも自分にはやっぱり無理なんだって。
心のどこかでは諦める自分がいた。
その感情を無理に抑えて表では何事もないよう上手く取り繕って。それでも自分には到底できっこないって。そんな表の気持ちに蓋をしている内側の自分を認めたくなかったんだ。
異能を持たない。
それが全てだと決め込んで、自分を追い込んで。
そんな自分が大嫌いだった。

「全てが上手くいくなら人生こんな苦労していない。それでもやれるだけのことを少しずつやればいい。困った時は俺が絶対助けてやる。だからもう自分をこれ以上責めんな」

不意に頬からはポロリと涙がこぼれ落ちた。
白夜に言われた言葉は時雨の中で何かを溶かしていく。
凝り固まった身体からは自然と力が抜けていった。
大丈夫だなんて。
本当は母が死んで一度も思えなかったんだって…。
変に虚勢を張って、心の底で自分を追い詰めていた事実さえ気が付けなかった。それを自覚した時、時雨は何か強いものから解放された気分になった。

「お、おい!泣くなって!!」

泣き出した時雨を見た白夜はギョっとすればあたふたする。
この男、さんざん色んな女性をクソみたいに追い払ってきては裏で泣かせてきたというのに、いざ好きな女の子を前に泣かれるとどうしたらいいのか分からなかった。

「そんな自分を追い詰めてどうすんだよ。辛いなら辛いって俺に言えば良かっただろうが」
「うぅ…だ、だって。白夜様は私のこと嫌ってたから」
「それは!!わ、悪かったって…。だから今度からは、、俺にそう言えば言いだろう」
「ふふっ何ですかそれ。でも…ありがとうございます」

冷酷非道な方だと思っていた。
契約なんて縛りを変に結んで何か裏があるんだって。
ここに来て間もない自分を毛嫌いする彼の様子に全てを諦めた顔で誓った。いつ殺されてもおかしくはない。だからせめて少しでも自分を好きになって貰えるようにって。
本当は貴方に認められたい。
生きたい。
そんな価値を与えて頂きたい。
そうか、きっと初めて会った時からずっと白夜様のことが…。
差し出されたハンカチで涙を拭くと彼に向き直る。

「白夜様、わたし頑張りますね。ここで生きていく為にも。貴方様の隣でお役に立つ為にも。いつか必ず立派に妻としての役目を果たしてみせますから」
「…おう。まあ、せいぜい頑張れよ」

ぎこちない返事だけどしっかり時雨を見てくれた。
我儘な顔とは対象に人の内情を理解し相手を評価している。
鳳魅の存在を時雨が認めたように。
白夜もまた彼の内情を理解し、その考えを評価したからこそ鳳魅は今もあの場所で生きていられるのではないか。なら自分もきっと認めていただける筈だ。
絶対に生きてみせる。
納得できる形で必ずや貴方のお側に。
私も好きですよ、白夜様。
心の中でそう貴方に愛を囁いた。

「よし、ならご飯食うぞ」
「はい!」