「…それでその眼を?」
「悪ぃ…。だが確かな確証が欲しかった。口ではどうとでも言えることだってあるし。お前の言っていることが単なる偽りとは違う決定的な証拠を掴む為にも。お前の心に隙ができたのをついて、あの日少しだけ覗いた」
あの帰り際、白夜様は私が話していることが真実かどうかを透視していたということか。
でも待って、なら…。
「あ、あの…。ではもしや、私が久野家で生活していた様子も」
「ああ、全て見た。まさかあんな扱いを久野家で強いられていたなんてな。術家の人間は性格悪ぃって聞くけど改めて見た時は胸糞悪かったわ」
久野家での内情も知られてしまった。
一体どこから見ていたのやら。
「と言っても全て見れる訳じゃねぇ。見えても数週間前までで透視能力は激しい妖力消費が伴い体に負荷がかかるから極力は使わない」
「…私を、殺さないのですか?」
例え内情が知られても今回の件には関係ない。
何よりマズイのは、久野家が契約に背き異能者を隠世へ送らなかったこと。それが今後の未来にどう影響してくるかが全く予想できない。
「あ?俺がお前を殺す?」
「私は異能を持ちません」
「異能ってそんなに無いと困るもん?」
「当たり前じゃないですか!!」
異能が無い人間に居場所なんてない。
無能。
そう言われ最後まで落ちこぼれのまま生きていく。
ガラクタのように周りから見放されて。
生きる価値さえ認めては貰えない。
あそこで求められるのは実力じゃない。
完璧なのだから。
「異能が無ければあの世界では生きられない。だから異能を持たない私があの家で認められることはない」
「でもお前にはもう関係ねぇ話だろ」
「?」
「お前がその久野家に戻ることも、落ちこぼれとして扱われることももう一生ねぇよ。お前は俺の婚約者としてここに渡ってきてる訳だし」
確かに久野家に戻ることはもうない。
でもだからって!!
「私がここに居ても邪気は浄化されません!白夜様の隣で貴方を支える力が私には無いのですよ!」
「だからさ~、なんでお前はそう何でも直ぐダメだと決めつけちまうんだよ」
「え…。だ、だって!」
「言った筈だ。俺は見切りをつけるって」
どういうこと?
白夜様の言っていることがよく分からない。
それが異能の有無にどう関係するというのだ。
「ただ異能があるだけじゃ駄目だ。ここでは生きられねぇ。今までにもそうやって多くの花嫁達が邪気にあてられ死んでいった。何故か分かるか?」
「…」 
「皆、術で受け入れるだけで原因の対処を一度だって考えなかったからだ。運命のようにただ受け入れて。長く生きようとあがく努力さえしなかった」
術家の花嫁達は己の身体に邪気が浸食していき長くは生きられずに亡くなる。
ここに送られてきた時点で現世にはもう戻れない。
だから諦めて、妖の隣で自分の死が来るのを待つだけ。それが私達、花嫁の宿命。
「花嫁達が悪いとは言わねぇ。よく知りもしねぇ場所で知らねぇ奴と結婚する訳だし。だがただ泣くだけで、死にたくねぇとか文句しか言わねぇ割には生きようとする意欲がそこにはねぇ」
「…」
「異能を持っていても所詮死ぬのなら宝の持ち腐れ。大事なのはどう生きられるかじゃねぇの?」
「!」
私は昔、母上が言っていたことを思い出した。
どう生きられるかが大事だって。
白夜様と全く同じことを言っていた。
「俺にとっちゃ、俺の相手に異能があろうがなかろうが正直関係ねぇ」
「…」
「俺は自分の意志で判断できる奴が好きだ。相手に流されることもない。目標に向かって只管に頑張っていける奴とそうじゃない奴とでは見えてくる先の未来が違う」
何もしないのに文句だけは言う人。
でもめげずに続けられる人とでは結果は明白。
経験は更なる高みに繋がる。
「お前はここで納得のいく生き方をすると俺に言った」
「!」
「異能がないのを受け入れた上で己の力で頑張ろうとしてんだ。俺の横に立つ理由としては、それだけでもう十分だろ」
「…本当に、異能がなくても宜しいのですか?」
「あのな、さっきから言ってる通り異能の有無なんて俺には関係ねぇんだよ。ぶっちゃけ異能があっても俺の方が強ぇし」
「まだまだ私は何もお役にも立てませんよ?」
「だからこそ証明するんだろ?鳳魅も認めてる訳だし。そいつにも認められたんだ。だから俺も契約した。大丈夫、信じてるから」

—時雨、お前が好きだ。