白鬼の封印師

「だけど俺は慎重なんだ。確かな確証が欲しい。口ではどうとでも言えるだろ。お前の言った意思が単なる偽りとは違う決定的な証拠を掴む為にも…お前に隙ができたところで心に侵入した。あの日、少しだけ覗いた」

あの日の帰り際、白夜は時雨の話すことが真実かどうかを透視していたということ。それはつまり…時雨の心にある記憶の操作を図られたとも言える発言。時雨がギクッとした。

「あ、あの!も…もしや、、、私が久野家で生活していた様子も見たんですか?」
「ああ…全て見た。まさかあんな扱いを受けていたとはな。久野家の令嬢…それにしては収拾がつかない有様に頭を抱えた。術家の人間は皆ああなのか?ま、胸糞は悪かった」

久野家での内情も知られてしまった。
一体どこまで覗かれたのやら。
過去とは言えど、その詮索領域までもを聞き出すのは少し怖くて結局聞けなかった。

「私を……殺さないのですか?」

例え内情が知られようが今回の件には関係ない。
何よりマズイのは久野家が契約に背き一華を隠世へ送らなかったこと。
それが今後の未来にどう影響してくるかが全く予想できない。
結局のところ自分に異能なんてものはないんだから。
無能である前に隠世で生きられる保障は未だない。
時雨は顔を暗くさせれば俯いた。

「あ?なんで俺がお前を殺すんだよ」
「…私は異能を持ちません」
「まあ…けど異能って無いとそんな困るもん?」
「当たり前じゃないですか!!」

時雨はたまらず声を荒げた。

「どれだけ惨めだったか…!異能さえあれば私だって、、、無能な人間が生きてていい世界なんかじゃないんです。そうやって多くの犠牲を払って沢山のことを我慢してきました。それでも…私にはどうしたって限界があった」

本当は叫びたいほど泣きたかった。
辛くて辛くてどうにかなりそうだった。
いつしか異能がないからだと、自分を卑下するようになっていった。
異能が無い人間に居場所なんてない。
無能。
そう言われ最後まで落ちこぼれのまま生きていく。
ガラクタのように周りから見放され、満足に生きる価値さえ認めては貰えない。あそこで求められるのは後にも先にも完璧な異能を持つ人間だけなんだから。

「異能が無ければあそこでは生きられない。だから異能を持たない私が認められることはきっとない」
「でもお前にはもう関係ねぇ話だろ。その馬鹿みたいな教訓と思想で成り立つ久野家に戻ることも、落ちこぼれとして扱われる生活も、もう一生訪れねぇよ。お前は俺の婚約者なんだから」
「私がここに居ても邪気は浄化されません。白夜様の隣で貴方を支える力が私には無いのですよ!」
「だからさ~、な~んでお前はそう何でもかんでも直ぐダメだって決めつけちまうんだよ」
「え…だ、だって、、私は!!」
「言った筈だ。俺は見切りをつけるって」

どういうこと?
白夜様の言っている意味がよく分からない。
それが異能の有無にどう関係するというのだ。

「異能があるだけじゃ駄目だ。ここでは生きられない。そうやって多くの花嫁達が邪気にあてられ過去死んでいった。何故か分かるか?皆、術で受け止めるだけで原因の対処を一度だって考えなかったからだ。運命のようにただ受け入れて。長く生きようとあがく努力さえしなかった」

花嫁達は己の身に邪気が浸食し、長くは生きられず亡くなる。
ここに送られてきた時点で現世にはもう戻れない。
だから諦め、妖の隣で自分の死が来るのを待つ。
それが花嫁の宿命。

「花嫁達が悪いとは言わねぇ。よく知りもしねぇ場所で知らない妖を相手に結婚する訳だ。だがただ泣くだけで死にたくねぇとか文句しか言わねぇ割に生きようとする意欲がそこにはねぇ」
「…」
「異能を持っていようが所詮死ぬなら宝の持ち腐れ。大事なのはそっからどう生きるかじゃねぇの?」
「!」

時雨は昔、母が言っていたことを思い出した。
どう生きるかが大事だって。
白夜と全く同じことを言っていた。

「俺にとっちゃ、自分の相手に異能があろうがなかろうが正直関係ない。俺は自分の意志で判断できる奴が好きだ。相手に流されることもない。目標に向かってひたすら頑張っていける奴とそうじゃない奴とでは見えてくる先の未来は違う」

何もしないくで文句だけは垂れる者。
逆にどんなに苦しくとも諦めない心と進み続ける努力を怠らない者。
結果は明白。
経験は更なる高みに繋がる。
だから挑戦することをやめてはならない。
苦しみは頑張ったから経験できるスパイスのようなもので、平坦な滑走路だけを歩む者には一生理解できない領域ともいえよう。

「お前はここで納得のいく生き方をすると俺に言った」
「!」
「異能がないのを受け入れた上で己の力で頑張ろうとしてんだ。俺の横に立つ理由としてはそれだけでもう十分だろ」
「…本当に、異能がなくても宜しいのですか?」
「あのな、異能の有無なん俺には関係ねぇんだよ。ぶっちゃけ異能があっても俺の方が強ぇし」
「まだまだ私は何もお役に立てませんよ?」
「だからこそ証明するんだろ?鳳魅も認めてるんだし、ソイツにも認められたんだ。だから俺もあの日契約した。……大丈夫、信じてるから。なあ…、、、」

俺、お前のこと……好きだ。