「白夜様、どうして…」
「知っていた」
「え?」
「お前に異能がないのは会った時から知っていた」
やっぱりそうか。
白夜様は相手に異能力があるかないか一目で感じ取れていたんだ。
でも待って、じゃあどうして…。
「何故、それを知っていながら何も仰っしゃってくれなかったのですか?」
「初めはとっとと告発してお前を追い出すつもりだった。正直この結婚には乗り気じゃなかったし。俺を鬼頭家に縛り付ける道具でしかないと思っていたから」
「…」
「お前と会うまでにも過去、何度か縁談の機会はあった。俺に媚び売る女達や自分の娘や孫をと差し出す奴らにほとほと呆れていた。そんな時、現世の術家に異能を持つ娘がいると知らされた」
あ、それって多分一華さんのことだ。
きっと鬼頭家には前々から彼女の存在が知らされていて、今回は白夜様の嫁にと申し込みが来た訳か。
「過去、鬼頭家に迎えた女達の話は聞いていたが俺にとって良い印象は無かった。だからその女のことも実際は興味なんてなかったし適当にあしらうつもりだった。だが見合い当日、来た奴を見て驚愕した。そいつには異能が無かったからだ」
「!」
白夜様は自身の瞳を指さす。
「異能の有無はこの眼がねぇと表からは判断できねぇ。親父は分かっていないようだったが、俺の眼は誤魔化せない。聞いていた話と違ったことが俺を更にイラつかせた」
「…では何故」
「だが一方で興味があった」
「!」
「異能を持たず、俺にも見捨てられたその身でどうここで生きていくつもりなのか。泣いて許しをこうのか、鬼頭家から逃れ野垂れ死にするのか。高みの見物でもしてやろうかという単なる好奇心材料に変わった」
それはつまり、私が無能であるのを初めから知っておきながら見て見ぬふりをしていたこと。
それは私の今後の行く末を見物するため。
白夜様にとっては、私が最後までどうなろうと初めからどうでも良かったってことなんだ。
「だがお前が選んだのはそのどちらでも無かった」
「え?」
「鳳魅の居るあの場所は本来、使用人ならば絶対に辿り着くことが出来ない鬼頭家が特別に張った結界領域に位置している。俺や親父でも無い限りは彼に会うことさえ不可能の筈だった」
「それは」
「いつものように鳳魅んとこに行ってお前の姿を見た時は驚いた。何故、異能も持たないお前が彼の居場所を知ることが出来たのか」
そう言われても私にもよく分からない。
ただ足の赴くまま。気づいたらあそこで彼に会っていたとしか説明のしようがない。
「そん時にそいつの存在を思い出したんだ」
「あ、」
白夜様が指差した先には私の腕に巻き付く白蛇さん。
「そいつは何日か前に、俺の部屋に入ってきたから世話していたお気に入りだった。よく見れば神獣だし。上手く育てて眷属にするつもりが、ある日を境に居なくなって探していたところだった」
私があの池で見つけた時、この子はとても弱っていた。白夜様の元を離れて何かやりたいことでもあったのかな?
「本来、そいつのような神獣は神の使い。そう簡単に他のもんに契約なんてしない。鳳魅の元に居るお前の存在。そんなお前にそいつが噛んで契約を結んだ時、俺は何かを確証した」
「確証?」
「問い詰めた俺に臆することなく、自分の意志を述べたお前にも他の奴とは違う何かを感じ取った。そいつが気に入ったぐらいだ。お前がここに来たのも偶然ではなく何か事情があると悟った」