ここは新鮮な魚介類を多く取り扱った懐石料理で有名。妖都は海に面した大帝国でもあり、他国との貿易業が盛んに行われている。流通資源の中には異国でしか見られない珍しい貝や魚も入ってくるので、季節に応じた料理が提供されるらしい。
「お前、懐石料理って食ったことある?」
「ありません」
「なら今日は連れてきて良かったかもな」
懐石料理か~
一度は食べてみたいと思ってはいたが叶えられずにいた。
久野家では皆が食べた残りを後でいただいていたし、贅沢なことは何一つやってこなかった。生きるのに精一杯で必要最低限な教養と知識せえ身につけていれば何とかなると思っていたからだ。
必要最低限の振る舞いをしろ。
異能、突出した才能すらない。
すなわち無能は大人しくしていろということだ。
努力次第で上にも下にもなれるシンプルなこの世界で自分に与えられたものは何もない。平和な普通の生活を夢見ていた頃もあったけど……。
完璧が当たり前な術家では常に死と隣り合わせ。
術家の持つ異能は国を守る。
隠世との中立を保ち、国公認の実力家系として特別な役職が与えられている。実力主義で構成された異端の卓越者が揃う中、異能を持たない人間というのはそれだけで汚点とも言えた。
久野家相伝の封印の異能。
それを受け継がず、無能と蔑まれる人生。
何をしても、どう頑張っても、久野家にとって時雨は無能であり無能でしかないということ。
だから頑張ろうと決めたのに。
ここで生きたいって。
今度こそ納得のいく生き方をしてやるって決めたんだ。
それでも過去は嫌でも時雨に付きまとう。
怖い。
苦しい。
悔しい。
上手くいかない現状も迫りくる脅威も。
何もかもが嫌で逃げ出したくなってしまう。
「焦んな」
その声にハッとする。
見れば白夜が静かに時雨を見つめていた。
「ここで生きる、お前がそう決めたんだろ。過去を忘れろとは言わねぇ。だけど噓偽りのない気持ちがあの日、お前の中にあったとするのなら。それは間違いなく過去のお前がいたお陰だ」
「…白夜様、私……私は、、、」
「いい言うな、分かってる。…お前、ホントは異能ないんだろ」
「お前、懐石料理って食ったことある?」
「ありません」
「なら今日は連れてきて良かったかもな」
懐石料理か~
一度は食べてみたいと思ってはいたが叶えられずにいた。
久野家では皆が食べた残りを後でいただいていたし、贅沢なことは何一つやってこなかった。生きるのに精一杯で必要最低限な教養と知識せえ身につけていれば何とかなると思っていたからだ。
必要最低限の振る舞いをしろ。
異能、突出した才能すらない。
すなわち無能は大人しくしていろということだ。
努力次第で上にも下にもなれるシンプルなこの世界で自分に与えられたものは何もない。平和な普通の生活を夢見ていた頃もあったけど……。
完璧が当たり前な術家では常に死と隣り合わせ。
術家の持つ異能は国を守る。
隠世との中立を保ち、国公認の実力家系として特別な役職が与えられている。実力主義で構成された異端の卓越者が揃う中、異能を持たない人間というのはそれだけで汚点とも言えた。
久野家相伝の封印の異能。
それを受け継がず、無能と蔑まれる人生。
何をしても、どう頑張っても、久野家にとって時雨は無能であり無能でしかないということ。
だから頑張ろうと決めたのに。
ここで生きたいって。
今度こそ納得のいく生き方をしてやるって決めたんだ。
それでも過去は嫌でも時雨に付きまとう。
怖い。
苦しい。
悔しい。
上手くいかない現状も迫りくる脅威も。
何もかもが嫌で逃げ出したくなってしまう。
「焦んな」
その声にハッとする。
見れば白夜が静かに時雨を見つめていた。
「ここで生きる、お前がそう決めたんだろ。過去を忘れろとは言わねぇ。だけど噓偽りのない気持ちがあの日、お前の中にあったとするのなら。それは間違いなく過去のお前がいたお陰だ」
「…白夜様、私……私は、、、」
「いい言うな、分かってる。…お前、ホントは異能ないんだろ」



