屋敷を出た先に停められていたのは大きな空船だった。
前にここに来た際、一度空船には乗ったことがある。
だが今日の船はそれを遥かに超える大きな造りで思わず固まってしまった。
「で、でかい…」
「何してんだよ、早く来いって」
そう言って船に乗り込む白夜様。
私も急いでその船に乗り込んだ。

ーーボワァ~

私達が乗ったのと同時に船は鬼火を灯すとゆっくりと浮上し発進する。高い場所まで上がれば進むにつれて見えてくる景色が絶景だった。
「わあ!」
「スゲェだろ」
「はい!こんな大きな船に乗ったのは生まれて初めてです」
「まあ、コイツは屋敷の中でも特別デカイ分類に入るからな。本来は上客専用に使われるものだけど今日は一つ貸切りにした」
道理で造り一つ一つが一級の素材で造られているわけだ。
私のためにわざわざ貸し出してくれたってことだよね?
でもこんな贅沢をしてしまってほんとにいいのだろうか。着物といい船といい。
本当に何をお考えなのかはさっぱりだ。
「それで今日はまた何故、妖都へ?」
私は昨日から気になっていたことを聞いてみた。
「あ?あー。ま、なんつーか気晴らし的な?お前には蛇の礼もあるし。その代わりといっちゃなんだが、俺が妖都を案内してやる的な?」
「それは、ありがとうございます!」
「ふん」
私にお礼がしたいから誘ってくれたんだ。
特別、何かしたわけでもないのに律儀だな。
でも距離が少し縮まったような気がして嬉しく感じる。
不器用な人だが、ちゃんと考えてくれていたんだ。
プイッとそっぽを向く彼の姿にクスリと笑う。
「なに笑ってんだよ」
「ふふ、申し訳ありません。こうして白夜様が一緒にいて下さるのがどこか新鮮で」
まあお礼としてだろうけど。
だがこうして側にいてくれる時間が長くなるほど、私は自分が少し白夜様に認められたような気がするのだ。
「そろそろ着くぞ」
暫くして白夜様はそう言うと視線を船の先へと向けた。
その先にはライトが遠くからでも確認できるほど、キラキラと照らされた大きな街が広がっていた。
夜とあってかその光景は一段と美しい。
それは船の上からでもハッキリと確認することが出来る。
「綺麗…あれが妖都ですか?」
「ああ。妖の王が住まう、隠世で最も大きな都市部だ」
船が停留所に停められると白夜様の後に続いて妖都の地に下り立つ。
そこは多くの妖達で賑わっていた。

【見ろ!鬼頭家のご子息様だぞ!】

【会うたびに妖力が強く、ご立派になられて】

【まあ、なんと綺麗な。いつ見ても、あの方はお美しいですわ】

白夜様の姿を視界に捉えた者達が一斉に視線を向ける。
その姿を一目拝もうと妖達が段々と集まってくる。

【夜間の記事に載せろ!】

【無理です!もう間に合いません!】

【ならば明日の朝刊には必ず間に合わせろ!!】

何処からか記者達の話し声が聞こえてくる。
多くの妖達が白夜様の姿みたさに押し合いへし合いする姿はまるでパパラッチのようだった。
だがそんな様子には見慣れているのか、白夜様は彼らを一瞥するだけすれば私の方を振り返いた。
「ほら」
そう言って差し出される手。
「?」
私は意味が分からず首を傾げる。
「ここは危ねぇ。だから手握ってろ」
「!」
白夜様と手を繋ぐ⁈
いきなりすぎて言葉が出ない。
だが困惑しつつも、私は素直にその手をゆっくりと掴んだ。

【おい、あの女は誰だ⁈】

【若様が女と手を繋いでいるぞ!!】

その光景を目にした妖達は驚きの声を上げ始めた。
視線は私へ向けられれば四方八方からは声が聞こえる。
私は恥ずかしくて居心地が悪くなれば、つい下を向いてしまう。
「前向け」
「!」
顔を上にあげれば白夜様が私を見つめていた。
「仮とはいえ、お前は俺の婚約者なんだろ?ならば周りの奴のことなんか気にせず堂々とふるまってろ」
そう言って私を引っ張っり歩きだす。
あれ?この人、こんなにも頼もしかったっけ?
今までの態度とは随分とかけ離れたその対応に若干驚いた。だがその言葉に励まされれば同じように前を向くと大勢の観衆の中、妖都の地を歩き出した。