妖都は大きな城のような王宮を正面に下は賑やかな城下町と繫華街で賑わいを見せていた。多くの妖達が行き交い、夜にも関わらず店という店が営業をしていて物珍しさからキョロキョロしてしまう。
久野家にいた時は外出する機会なんてなかった。
あっても一華の付き添いで買い物の荷物持ちをする時ぐらい。
基本は学校に行くとき以外、久野家での仕事もあったし、「買い物」とか「遊ぶ」とかの楽しい概念は見事に欠落していた時雨にはサッパリだった。
「どっか行きてぇとことか見てぇもんある?」
「いえ、私は特には。こうして見てるだけでも楽しいです!」
「お前どっか出かけたことないの?」
「はい。妹の付き添い程度には」
「…なら先に俺の用事に付き合ってくれるか?」
白夜は一軒の店の前で止まると中へ入っていく。
明庵堂と暖簾のかかったそこは入ると着物が掛けられていた。
「ここは?」
「鬼頭家御用達の呉服屋。妖都に来た時はいつも立ち寄ってる」
店内は畳部屋でできていて綺麗な着物がガラスケースにかけられていたり、奥には試着室などもあって接客してる様子も垣間見えた。すると奥では気付いた女性が慌てて駆け寄ってくる。
「おやまあ!これはこれは!鬼頭家の若様じゃないかい!」
それは顔に一つだけ目がついた…一つ目の妖だった。
上品な藤色の着物に綺麗に結い上げられた髪の女性は白夜を見るなり嬉しそうな顔で出迎えてくれる。
「よお女将、久しぶり」
「ほんと久しぶりじゃないかい。この頃、ちっとも顔を見せてくれないんだから。心配していたんだよ」
「悪ぃな、最近は家が忙しくて中々訪ねる暇がないんだ。今日は一段落ついたから挨拶ついでに寄ったってわけ」
「いやぁねぇ~、鬼頭家の若様も大変なことで。…おや?そちらにいるお嬢様は誰だい?」
女将は白夜の隣にいる時雨の存在に気づく。
「久野時雨。俺の婚約者だ」
「はじめまして。久野時雨と申します」
時雨が挨拶すれば女将はビックリしていた。
だが直ぐにパッと顔を輝かせる。
「久野…ああ!!今年、鬼頭家で迎えたとかいう噂の花嫁様だね⁈現世との噂は聞いてはいるけど…なんだい可愛らしいお嬢様じゃないかい!」
「この人は文月さん。この明庵堂で女将をやっている人だ。因みに鬼頭家で使われる着物はここで作られている」
白夜はそう紹介してくれた。
相変わらず文月さんはニコニコとした顔で笑っている。
「ふふ、鬼頭家様にはいつもご贔屓にして頂いて。感謝しております」
「今日は少し女将に話してぇことがあって来たんだが。お前は少しここで待ってて貰っていいか?」
どうやら大事な話そう。
仕事関連かもしれないし、自分がいたら邪魔になってしまうだろう。
時雨はそう考えて静かに頷いた。
「構いません。その間、店内を少し見させて頂いてます」
「悪いな。じゃあ少しの間だけ頼むわ」
白夜が女将と奥に消えてしまうと時雨は店内を見渡した。
鬼頭家の扱う呉服店だけあって、他の妖達も上流貴族が目立つ。邪魔にならないように展示されている着物を観察してればある商品に目がいった。
奥座敷へ案内された白夜が腰かければ女将が向き直る。
「それで、今日はいかがいたしましょうか」
明庵堂は本来、上級貴族向けに商品を提供する老舗店。
訪れる者も当然のごとく資産家の集まりで、生地一つを買うのでさえ一般給料の年半分が吹き飛ぶ。だがその分、ご贔屓する年数が高い家ほど周りへの影響力も高く、呉服ナンバーワンの肩書きを誇る明庵堂をバックにつけるのは一つの強みとも言えた。
その存在こそが鬼頭家であった。
「買いてぇもんがある」
白夜は早々に本題に入ろうと話を切り出す。
「でしたら丁度いい生地が先程入ったばっかなんですよ。そちらはいかがでしょう?」
「いや、今回は仕事の話とはまた違う」
「と、言いますと?」
「アイツに似合う生地を何点か見繕って欲しい」
女将はその言葉に驚きを隠せずにいた。
今や隠世ではその存在を知らない者はいない、この美しくも冷酷な白鬼が過去どんな女性とすら関係を紡がなかったくせに、ここにきて一人の女性相手に着物を買いたいと言う。
「おやおや…まあまあ!!あの若様がついにそんなことを言い出すだなんて。長生きとはしてみるものですわぁ」
「別にそんなんじゃねぇって。ただアイツには色々と借りができたから礼ってだけで…」
「嫌ですわ~若様ったら。そんな恥ずかしがらなくとも。あのお嬢様が好きなら、好きとそう仰っしゃればいいのに」
「ば、ち、違ぇって!!」
慌てる白夜に女将はクスリと口に手を当て笑う。
こんなに動揺した白夜を見るのは初めてのことだった。
「で、それはそうと、似合いそうなもんは?」
「ふふ、そうですわね。あのようなお嬢様にはこういった濃い色合いのものがよくお似合いになるかと。髪も黒く綺麗な方ですから」
「お、女将分かってんじゃん」
「もしや先ほど着ていらしお召し物も。ひょっとして若様が?」
「ああ、俺が選んだ」
「流石ですわ。でしたらあのようなものを基準にこちらで何点か生地の方を絞らせて頂きましょう。決まり次第、鬼頭家にはご連絡差し上げる形でも宜しいでしょうか」
「構わねぇよ。金はいくらかかってもいい。今はアイツ待たせてるから俺もこれで戻る」
白夜は二つ返事で了承すれば表に戻ろうとして立ち上がる。
そんな様子を女将は「若様」といって引き止める。
「いいですか?あのお嬢様は磨けば賜物。それはそれは美しいご令嬢へ成長を遂げる筈です。その為には若様、貴方様ご自身で綺麗に磨きあげるのです!」
「磨く?」
「そうですわ!女性は愛されてこそ真の美しさに華を添える生き物。その為には若様のお力は必須!隠世での生活はまだまだ不安でしょうし…今後は若様の手で守り幸せにして差し上げるのです」
女将の真剣な眼差しに白夜は考え込んでいた顔を上げる。
視線の横、上等な一反の椿柄の生地が目に止まれば彼女の姿を思い出していたずらな笑みを浮かべる。
「俺の手でね…。ま、それはアイツ次第だけどな」
久野家にいた時は外出する機会なんてなかった。
あっても一華の付き添いで買い物の荷物持ちをする時ぐらい。
基本は学校に行くとき以外、久野家での仕事もあったし、「買い物」とか「遊ぶ」とかの楽しい概念は見事に欠落していた時雨にはサッパリだった。
「どっか行きてぇとことか見てぇもんある?」
「いえ、私は特には。こうして見てるだけでも楽しいです!」
「お前どっか出かけたことないの?」
「はい。妹の付き添い程度には」
「…なら先に俺の用事に付き合ってくれるか?」
白夜は一軒の店の前で止まると中へ入っていく。
明庵堂と暖簾のかかったそこは入ると着物が掛けられていた。
「ここは?」
「鬼頭家御用達の呉服屋。妖都に来た時はいつも立ち寄ってる」
店内は畳部屋でできていて綺麗な着物がガラスケースにかけられていたり、奥には試着室などもあって接客してる様子も垣間見えた。すると奥では気付いた女性が慌てて駆け寄ってくる。
「おやまあ!これはこれは!鬼頭家の若様じゃないかい!」
それは顔に一つだけ目がついた…一つ目の妖だった。
上品な藤色の着物に綺麗に結い上げられた髪の女性は白夜を見るなり嬉しそうな顔で出迎えてくれる。
「よお女将、久しぶり」
「ほんと久しぶりじゃないかい。この頃、ちっとも顔を見せてくれないんだから。心配していたんだよ」
「悪ぃな、最近は家が忙しくて中々訪ねる暇がないんだ。今日は一段落ついたから挨拶ついでに寄ったってわけ」
「いやぁねぇ~、鬼頭家の若様も大変なことで。…おや?そちらにいるお嬢様は誰だい?」
女将は白夜の隣にいる時雨の存在に気づく。
「久野時雨。俺の婚約者だ」
「はじめまして。久野時雨と申します」
時雨が挨拶すれば女将はビックリしていた。
だが直ぐにパッと顔を輝かせる。
「久野…ああ!!今年、鬼頭家で迎えたとかいう噂の花嫁様だね⁈現世との噂は聞いてはいるけど…なんだい可愛らしいお嬢様じゃないかい!」
「この人は文月さん。この明庵堂で女将をやっている人だ。因みに鬼頭家で使われる着物はここで作られている」
白夜はそう紹介してくれた。
相変わらず文月さんはニコニコとした顔で笑っている。
「ふふ、鬼頭家様にはいつもご贔屓にして頂いて。感謝しております」
「今日は少し女将に話してぇことがあって来たんだが。お前は少しここで待ってて貰っていいか?」
どうやら大事な話そう。
仕事関連かもしれないし、自分がいたら邪魔になってしまうだろう。
時雨はそう考えて静かに頷いた。
「構いません。その間、店内を少し見させて頂いてます」
「悪いな。じゃあ少しの間だけ頼むわ」
白夜が女将と奥に消えてしまうと時雨は店内を見渡した。
鬼頭家の扱う呉服店だけあって、他の妖達も上流貴族が目立つ。邪魔にならないように展示されている着物を観察してればある商品に目がいった。
奥座敷へ案内された白夜が腰かければ女将が向き直る。
「それで、今日はいかがいたしましょうか」
明庵堂は本来、上級貴族向けに商品を提供する老舗店。
訪れる者も当然のごとく資産家の集まりで、生地一つを買うのでさえ一般給料の年半分が吹き飛ぶ。だがその分、ご贔屓する年数が高い家ほど周りへの影響力も高く、呉服ナンバーワンの肩書きを誇る明庵堂をバックにつけるのは一つの強みとも言えた。
その存在こそが鬼頭家であった。
「買いてぇもんがある」
白夜は早々に本題に入ろうと話を切り出す。
「でしたら丁度いい生地が先程入ったばっかなんですよ。そちらはいかがでしょう?」
「いや、今回は仕事の話とはまた違う」
「と、言いますと?」
「アイツに似合う生地を何点か見繕って欲しい」
女将はその言葉に驚きを隠せずにいた。
今や隠世ではその存在を知らない者はいない、この美しくも冷酷な白鬼が過去どんな女性とすら関係を紡がなかったくせに、ここにきて一人の女性相手に着物を買いたいと言う。
「おやおや…まあまあ!!あの若様がついにそんなことを言い出すだなんて。長生きとはしてみるものですわぁ」
「別にそんなんじゃねぇって。ただアイツには色々と借りができたから礼ってだけで…」
「嫌ですわ~若様ったら。そんな恥ずかしがらなくとも。あのお嬢様が好きなら、好きとそう仰っしゃればいいのに」
「ば、ち、違ぇって!!」
慌てる白夜に女将はクスリと口に手を当て笑う。
こんなに動揺した白夜を見るのは初めてのことだった。
「で、それはそうと、似合いそうなもんは?」
「ふふ、そうですわね。あのようなお嬢様にはこういった濃い色合いのものがよくお似合いになるかと。髪も黒く綺麗な方ですから」
「お、女将分かってんじゃん」
「もしや先ほど着ていらしお召し物も。ひょっとして若様が?」
「ああ、俺が選んだ」
「流石ですわ。でしたらあのようなものを基準にこちらで何点か生地の方を絞らせて頂きましょう。決まり次第、鬼頭家にはご連絡差し上げる形でも宜しいでしょうか」
「構わねぇよ。金はいくらかかってもいい。今はアイツ待たせてるから俺もこれで戻る」
白夜は二つ返事で了承すれば表に戻ろうとして立ち上がる。
そんな様子を女将は「若様」といって引き止める。
「いいですか?あのお嬢様は磨けば賜物。それはそれは美しいご令嬢へ成長を遂げる筈です。その為には若様、貴方様ご自身で綺麗に磨きあげるのです!」
「磨く?」
「そうですわ!女性は愛されてこそ真の美しさに華を添える生き物。その為には若様のお力は必須!隠世での生活はまだまだ不安でしょうし…今後は若様の手で守り幸せにして差し上げるのです」
女将の真剣な眼差しに白夜は考え込んでいた顔を上げる。
視線の横、上等な一反の椿柄の生地が目に止まれば彼女の姿を思い出していたずらな笑みを浮かべる。
「俺の手でね…。ま、それはアイツ次第だけどな」



