鬼門は魑魅魍魎。
つまりは邪気の出入りする方角で不吉とされている。
これに対し、鬼門と反対方角を示す裏鬼門も同じく不吉とされている。そのため古くからは鬼門封じとしての寺社が建てられている。
三大術家が位置する京都ならば延暦寺。
裏鬼門側なら石清水八幡宮といったところか。
こう考えると丑三つ時はその方角が鬼門にあたることで縁起が悪いとされる。
「草木も眠る丑三つ時と呼ばれるこの時刻。人間や動物だけでなく草木までが眠り込むほどに夜の闇が深い。だから霊界の扉が開き霊が来ると言われている」
「合わせ鏡とかも危険ってよく聞くよ」
「鏡は昔から祭具として神事にも使用されていたからね。気を吸う効果と反射する効果。合わせることで互いの間に異空間を形成させて魔を発生させちゃうわけ。丑の刻参りという言葉があるだろう?午前一時から三時の人が寝静まる刻に、藁人形を神社の御神木に五寸釘で打ち込むと鬼の力で相手を呪うことが出来るともされている」
どんな意味であれ、やはり鬼門はいい印象がないようだ。この地もそういった意味では鬼門に位置することを恐れた人間達が今も尚、妖達の存在にいい印象を持てないことに納得がいく。
「十二支の一つ、蛇は天候や豊富の神とされてきた。脱皮は復活と再生を表し強い生命力があるとされる。七福神の弁財天とも関わりが深いから財布に皮を入れとくと財運効果があるって訳さ」
私は白蛇さんへと視線を向けた。
白蛇さんは苦しくない、ほどよい加減で腕に巻きついたまま離れようとはしない。そんなに凄い子がどうして私みたいな人間に懐いたのだろう。
白蛇さんは私の視線に気がつくと自身の顔を近づけて私を至近距離で見つめた。チラチラと出し入れされる赤い舌がなんとも…。
「かわいい…」
「ま、何はともあれ君は白蛇に加護を与えられた訳だ。上手く躾けられれば今後は相当な武器になるはずだ」
私に躾けられるのだろうか。
蛇に好かれたのなんて生まれて初めてのことだから。
正直どうすれば良いのかなんてよく分からない。
「私に務まるかな…?普通の蛇とは違う訳だから、どうお世話すればいいかさえ分かんないし」
「じゃあ聞いてみれば?」
「誰に?」
「そんなの決まってるじゃ〜ん、君の愛しの旦那様にだよお~♡」
「ええ!!白夜様に⁈」
白夜様に私が聞くの?蛇の躾け方を教えて下さいって?
絶対に鼻で笑われて終わりそうなんだけど。
「最初にその子を見つけたのは若みたいだし。暫くは彼が面倒見ていたと思うからこの際、聞いてみなよ」
「いやー、でも…」
「なぁに恥ずかしがってんの。ゆくゆくは結婚する仲なんだ。今のうちにしっかり色々深め合っとかないと♡」
「ちょ、嫌らしい言い方しないで!」
ニヤニヤと笑う鳳魅さんに顔が赤くなってしまう。
あとこの人、度々語尾に♡マークつけるの何なの…。
顔が綺麗で助かったな。
でなければセクハラで訴えられているところだ。
「聞くのもまた経験。明日あたりにでも聞いてみなよ」
「ええ…」
なんやかんやで不満しかない私。
だが鳳魅さんの圧に押し負けると明日の朝食時に聞くことで話が決まった。