「ふぅ~ん、貴方がそうなの」
「突然のことですまない。お前達にも迷惑をかけるが久野家が引き取ることになった」
あれから一人、通されたお部屋で荷物の整理をしていれば父から呼び出された。
通された部屋は広い畳張りの床にガラス細工が施された照明が灯る大きなお座敷だった。築何百年と長年に渡ってその姿を保ち続けてきたような、古きを重んじる伝統染みた構造だった。私は失礼のないよう、部屋の隅で手をつくと綺麗に頭を下げて一礼した。
「あらいいのよ。丁度一華の使用人が一人辞めたとこで、人手が欲しかったとこだから」
一段高くなった場所で鎮座する父。
その傍ら席で父と話をする女性——由紀江(ゆきえ)さんはクスリと笑えば私を見つめた。
この人が父の言っていた妻にあたる人。
つまりは私の義母という訳だ。
宝石が散りばめられたネックレスに指輪。
厚化粧を施した顔には真っ赤な口紅が塗られているのが強く印象に残った。
母とは似ても似つかないその姿。
「使用人にしてはそこそこマシな顔で安心しましたわ。私に仕える者が不細工だなんて私の顔が立ちませんもの。ねえお母様?」
「ふふ、そうね」
全くもって私には笑える話ではない。
由紀江さんの隣に座る彼女から聞こえる声が広い部屋へよく響き渡った。
「ふふ、これから宜しくね?お姉様」
「もう一華、お姉様だなんて。こんな子をそんな風に呼ぶのはお辞めなさい。あの忌々しい女狐の子なんだから」
初対面なのに遠慮のカケラも無いようだ。
私に対する彼女達の印象は最悪。
薄っすらと口角をあげて微笑む姿に見てて寒気がした。
チラリと父を見てみれば、そんな由紀恵さん達の様子を咎めることもせず黙って静観している。
ここに来て時間はさほど経ってはいない。
だが改めて分かった。私はこの家において、歓迎される身ではないのだということを。
母上のいた私達の家に帰りたい。
悲しくて下を向くとグッと歯を食いしばった。
自分が思っていた以上にここは冷たい。
母が死んでお葬式もあげる暇さえ与えられずここに連れてこられてしまったが、ここ(久野家)は一体何なのだろうか。単なる資産家だけで収まるような存在には到底思えなかった。