金曜の夜から降り続いていた雨が上がり、日曜の朝は嘘のようにからりと晴れ渡っていた。

午後二時に小鳥遊と約束をしたのだが、あの喫茶店の空気を味わいたくて我慢できなかった僕は、少し早めに家を出た。

清々しい程の爽やかな水色の空の下を歩く僕の心は、まるでクリスマスの朝にプレゼントをもらった子供のように浮かれていた。

良い歳した大人なので抑えてはいるが、スキップでもしてしまいたい気分だ。

軽い足取りで黒猫と月のドアの前までやって来た。

厚いドアのせいか、中の音は何も聞こえない。

ノブに手を掛ける。

カランコロン 

ベルの音と共に、愛さんがキッチンから「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。

さっきまであんなに浮かれていたくせに、平静を装って「こんにちは」と俯き加減で挨拶をしてしまった。

違う。これから常連になるつもりなのだから、もっとこうフランクに話したかったのだ。

こんな大事なタイミングで、僕の人見知りが爆発するなんて。

出だしから失敗した僕は、聞こえないように心の中で嘆息しながら、以前と同じ窓に面した横長のテーブルの椅子に腰を下ろした。