「翠蘭様、ご所望の品をご用意いたしました」
「わぁい、ありがとう!」
体を起こすのが苦痛でなくなった頃、私は仙月に頼み、紙と墨と筆を持ってきてもらった。
(おぉ!)
翠蘭の体に染みついた経験のおかげで、筆を操るのも問題ない。頭に浮かんだ光景は、ちゃんとこの世界の文字や言葉となって紙の上で踊った。
(っしゃ、書くぞ!)
寝ている間にネタはしっかりと頭の中で練った。問題は……。
(キャラ名、何にしようかな?)
しばし考えた後に、ふと悪戯心が湧きあがる。
(「キャラ×自分」の二次創作を書いても、ここでは怒られないよね!)
元の作品を知る人がいないのだから、同担拒否の人間もいない。
(ふふふ、書いてやる。私の私による私のための欲望に忠実な夢小説を!)
方向性が決まれば後は滑るように筆は進んだ。
好きなソーシャルゲーム「むしがね絵巻」の推し『アキツ』が、『朱音』をとろっとろに甘やかすR-18作品だ。
(ふひひひ、アキツが私にこんなことや、こぉんなことまでしちゃってる。元の世界でこれ書いたら、同担拒否の人に絡まれて批判コメ来るやつだよね。いやいやまだまだ、こんなものじゃ終わらないよ! あの本で新しく知ったテクも使わせてもらう!)
書いて興奮、読み返してドキドキ。
(楽しい、すごく楽しい~!)
朝書き始めた小説は、夕刻になる頃には仕上がっていた。
(はぁ~、良き! まさに自分の読みたかった小説がここにある!)
自分でストーリーを考えて書いて、内容は全て把握しているはずなのに、何度読み返してもニヤニヤしてしまう。
(はぁう、こんなにもアキツに愛されてしまった、幸せ……!)
「翠蘭様、お食事をお持ちしました」
仙月の声にハッとなる。書き上げたものを片付けると、私は箸に手を付けた。
(次は食事ネタもいいよね。あ~んして、食べさせ合うところから始まって、特にこのフルーツなんて使えそう。くふ、くふふ……)
食事を口に運びながらも、私の頭の中は次に書くネタを練り始めていた。
数日間は、ただアウトプットすることを楽しみ続けた。
書いたものを読み返すだけで幸せになれる。なにせ中身は、推しと私とのかなり濃厚なラブストーリーなのだから。
「翠蘭様、最近とても楽しそうでいらっしゃいますね」
侍女の1人、控えめな紅花が、私の髪を梳きながら話しかけてきた。
「えへへ、そう見える?」
「はい!」
「翠蘭様、何を書かれているんですか?」
髪飾りを運んで来た侍女、はきはきした若汐が屈託なく問いかけてくる。
(そうね……)
自分で楽しむために書いたものだけど、そろそろ他人の感想が欲しくなってきた頃だ。創作活動をしたことのある人間なら、お分かりいただけるだろう。
私は書いたものの中から、R-15くらいの比較的刺激の少ない作品を取り出した。
「読んでみて」
「よろしいのですか?」
二人の侍女はぱっと顔を輝かせ、並んで紙をのぞき込む。
「まぁ、恋物語!」
「これを翠蘭様が?」
二人は楽し気に読み始める。やがてその目はうっとりととろけたものに変化して。そして。
「ひぁ!?」
声を上げたのは若汐だった。紅花は口元を抑え、ただ頬を赤らめている。
(ふふ)
いけない快感だ。二人は今、ちょっと刺激の強い場面を読んでいるのだろう。だが、彼女らは放り出すことなく、真剣な眼差しで文字を辿っている。
やがて読み終えた二人は、紙の束をそっと下ろした。
「どうだった?」
「あの、えっと……」
口ごもる紅花に代わり、若汐が答える。
「とっ、とても、胸が高鳴りました。その、艶やかで、すごく……その」
「あ、あのっ……」
主人に問われれば、侍女として答えぬわけにもいかないのだろう。大人し気な紅花も頑張る。
「蜻蛉様がとても素敵で、その。これほど素敵な御仁にこんな風に言われたら、夢中になってしまうな、って思いました」
「きゃー、ありがとう!」
私は両手を広げ二人を抱きしめる。
「アキツ、いいよね! 分かってくれて嬉しい! そうなの、アキツ最高なの! 紳士的なのに剛腕で、大抵の人間は簡単に持ち上げることできるのに、相手を思いやって力加減しているのが最高だし、そのリミットが外れた時の雄の雰囲気が極上のエロさで!」
二人は頬を染めたまま、互いに困惑と恥じらいの入り混じった笑みを浮かべている。
「他にもあるよ!」
私は二人を放すと、これまで書き上げた小説の束を手に取る。
「もっと濃厚なやつ!」
「濃こ……っ」
「よ、読ませてください!」
顔を赤らめたまま、若汐は元気に手を上げる。
「じゃあ、これ」
「ありがとうございます!」
私が一篇を手渡すと、若汐は目を輝かせて読み始める。一方紅花は、もじもじしながらもこちらを伺うように見ていた。
「どうしたの、紅花?」
「あ、あの、私も、その……」
「読んでくれるの?」
私は別の一篇を手渡す。
「じゃあ、これ」
「は、はいっ! あ、ありがとうございます」
二人の侍女がうっとりした目つきで私の書いたものを読む姿を、私はソワソワした気持ちで眺めていた。
(はぁ、やっぱり書いたものを読んでもらうの嬉しいし、リアクション見られるの楽しい!)
「あなたたち、一体何をしているの」
仙月の声に私たち3人は現実に引き戻された。
「わぁい、ありがとう!」
体を起こすのが苦痛でなくなった頃、私は仙月に頼み、紙と墨と筆を持ってきてもらった。
(おぉ!)
翠蘭の体に染みついた経験のおかげで、筆を操るのも問題ない。頭に浮かんだ光景は、ちゃんとこの世界の文字や言葉となって紙の上で踊った。
(っしゃ、書くぞ!)
寝ている間にネタはしっかりと頭の中で練った。問題は……。
(キャラ名、何にしようかな?)
しばし考えた後に、ふと悪戯心が湧きあがる。
(「キャラ×自分」の二次創作を書いても、ここでは怒られないよね!)
元の作品を知る人がいないのだから、同担拒否の人間もいない。
(ふふふ、書いてやる。私の私による私のための欲望に忠実な夢小説を!)
方向性が決まれば後は滑るように筆は進んだ。
好きなソーシャルゲーム「むしがね絵巻」の推し『アキツ』が、『朱音』をとろっとろに甘やかすR-18作品だ。
(ふひひひ、アキツが私にこんなことや、こぉんなことまでしちゃってる。元の世界でこれ書いたら、同担拒否の人に絡まれて批判コメ来るやつだよね。いやいやまだまだ、こんなものじゃ終わらないよ! あの本で新しく知ったテクも使わせてもらう!)
書いて興奮、読み返してドキドキ。
(楽しい、すごく楽しい~!)
朝書き始めた小説は、夕刻になる頃には仕上がっていた。
(はぁ~、良き! まさに自分の読みたかった小説がここにある!)
自分でストーリーを考えて書いて、内容は全て把握しているはずなのに、何度読み返してもニヤニヤしてしまう。
(はぁう、こんなにもアキツに愛されてしまった、幸せ……!)
「翠蘭様、お食事をお持ちしました」
仙月の声にハッとなる。書き上げたものを片付けると、私は箸に手を付けた。
(次は食事ネタもいいよね。あ~んして、食べさせ合うところから始まって、特にこのフルーツなんて使えそう。くふ、くふふ……)
食事を口に運びながらも、私の頭の中は次に書くネタを練り始めていた。
数日間は、ただアウトプットすることを楽しみ続けた。
書いたものを読み返すだけで幸せになれる。なにせ中身は、推しと私とのかなり濃厚なラブストーリーなのだから。
「翠蘭様、最近とても楽しそうでいらっしゃいますね」
侍女の1人、控えめな紅花が、私の髪を梳きながら話しかけてきた。
「えへへ、そう見える?」
「はい!」
「翠蘭様、何を書かれているんですか?」
髪飾りを運んで来た侍女、はきはきした若汐が屈託なく問いかけてくる。
(そうね……)
自分で楽しむために書いたものだけど、そろそろ他人の感想が欲しくなってきた頃だ。創作活動をしたことのある人間なら、お分かりいただけるだろう。
私は書いたものの中から、R-15くらいの比較的刺激の少ない作品を取り出した。
「読んでみて」
「よろしいのですか?」
二人の侍女はぱっと顔を輝かせ、並んで紙をのぞき込む。
「まぁ、恋物語!」
「これを翠蘭様が?」
二人は楽し気に読み始める。やがてその目はうっとりととろけたものに変化して。そして。
「ひぁ!?」
声を上げたのは若汐だった。紅花は口元を抑え、ただ頬を赤らめている。
(ふふ)
いけない快感だ。二人は今、ちょっと刺激の強い場面を読んでいるのだろう。だが、彼女らは放り出すことなく、真剣な眼差しで文字を辿っている。
やがて読み終えた二人は、紙の束をそっと下ろした。
「どうだった?」
「あの、えっと……」
口ごもる紅花に代わり、若汐が答える。
「とっ、とても、胸が高鳴りました。その、艶やかで、すごく……その」
「あ、あのっ……」
主人に問われれば、侍女として答えぬわけにもいかないのだろう。大人し気な紅花も頑張る。
「蜻蛉様がとても素敵で、その。これほど素敵な御仁にこんな風に言われたら、夢中になってしまうな、って思いました」
「きゃー、ありがとう!」
私は両手を広げ二人を抱きしめる。
「アキツ、いいよね! 分かってくれて嬉しい! そうなの、アキツ最高なの! 紳士的なのに剛腕で、大抵の人間は簡単に持ち上げることできるのに、相手を思いやって力加減しているのが最高だし、そのリミットが外れた時の雄の雰囲気が極上のエロさで!」
二人は頬を染めたまま、互いに困惑と恥じらいの入り混じった笑みを浮かべている。
「他にもあるよ!」
私は二人を放すと、これまで書き上げた小説の束を手に取る。
「もっと濃厚なやつ!」
「濃こ……っ」
「よ、読ませてください!」
顔を赤らめたまま、若汐は元気に手を上げる。
「じゃあ、これ」
「ありがとうございます!」
私が一篇を手渡すと、若汐は目を輝かせて読み始める。一方紅花は、もじもじしながらもこちらを伺うように見ていた。
「どうしたの、紅花?」
「あ、あの、私も、その……」
「読んでくれるの?」
私は別の一篇を手渡す。
「じゃあ、これ」
「は、はいっ! あ、ありがとうございます」
二人の侍女がうっとりした目つきで私の書いたものを読む姿を、私はソワソワした気持ちで眺めていた。
(はぁ、やっぱり書いたものを読んでもらうの嬉しいし、リアクション見られるの楽しい!)
「あなたたち、一体何をしているの」
仙月の声に私たち3人は現実に引き戻された。