「お、お疲れさん。順調に二人目の課題クリアだな」
気がつけば、公園から一面が真っ白な空間に飛ばされていた。相変わらず、相手の勝手なタイミングでやらせる。ブラック企業、という単語が過ったが、労基みたいな場所がここに存在しているのだろうか。訴える場所も相手も分からなくて、舌打ちをこぼした。
「相変わらず態度が悪いな」
「はいはい、悪かったですね」
反抗期の女子高生みたいな態度をとってみれば、彼は肩を上下にゆすって、やれやれというジェスチャー込みで声もこぼした。
「今回はどうだった?」
「……簡単、なんかじゃないよ」
顔色がすこぶる悪くて、私が手助けしなくても、普通に体調不良で死んでしまうんじゃないかって思わせるようで。そんな相手の手元には大量の薬があって、ああ、やっぱりその手段が頭に浮かぶんだなって。寂しい気持ちがなぜか沸いてきてしまった。
猫を被る、という言葉はよく使われるけれど、彼ほど猫を飼っている人物も中々にいなかっただろう。本当は物事をスムーズに進ませるために、世渡り上手くいくためのスキルだろうに、それで己の首を絞めていたのだから、何とも皮肉。
彼も、良い人だった。ずっと、自分より他人の事ばかり。自分の心配をしろよ、大切にしろよって何度思ったことか、何度口にしたことか。ああいう人は、自分を大切にしろと言われても、分からないんだろうけれど。
だからこそ、彼が最後に取った手段は、予想通りだなと思った。
私が居なくなった後は、今度はあの友人たちが、彼を見張っててほしいな。
「まさかさ、私の心配までしてくれるとは思わなかった」
「へえ、どんなふうに?」
「無理しない様にって。君はまだ子供だからなんだからって」
「あっはっは! 大学生にも言われていたのか」
彼は手を叩きながら大爆笑をする。先ほどまで持っていた、あの人の資料の束、今では白紙の紙束を、また彼に向けて投げつけてやった。
なにするんだ! と怒ってきたが知らない。そっぽを向いて、眉間に皺を寄せる。
「全く、君は想像以上に扱いが難しいな。ほら、次の課題だ」
最近は上司が部下の扱いに困る、パワハラの逆の様なものが存在していると聞いている。今の私はそれに当てはまらないかと一瞬心配したが、相手の無茶難題に応えるんだから許されてほしい。
黒髪の大学生が、脳裏に過る。無理をしない様に、か。私も頑張ってみようかな。手渡された資料を受け取り、パラパラとめくっていく。
三人目は、どうやら女性で、とっくに成人を迎えた大人のようだ。ピンクブラウンに色分けられるような、明るすぎずに、かつ甘くやさしい印象を与える髪色。メイクだって、流行りと自分に似合うものを理解しているようで、男ウケのよさそうな顔立ちだ。肩までの長さの髪は緩く巻かれており、前髪は編み込みもしている。服装も、オフィスカジュアルだろうか? これも派手過ぎずに、それでいて女性らしく可愛らしい服を纏っている。そして、今までの二人と違って、ゆるりと笑みを浮かべている。だが共通して、同じように瞳に光がない。
笑みを浮かべているのに、目に光がない。笑っているはずなのに、笑ってはいない。そのギャップが何だか未知の物に触れるようで、恥ずかしいことに少しだけ怖いと感じた。
「頑張れそうか?」
「ばかにしないでよね」
ここまでやってきて、やっぱりもうやめます、なんて言えるわけがないだろう。それも分かっているはずなのだ。彼は性格が悪い。ムカつく。
ムカつく、なんて思いながらも、素直に、もう慣れ始めている光の輪に向かって足を進めた。
気がつけば、公園から一面が真っ白な空間に飛ばされていた。相変わらず、相手の勝手なタイミングでやらせる。ブラック企業、という単語が過ったが、労基みたいな場所がここに存在しているのだろうか。訴える場所も相手も分からなくて、舌打ちをこぼした。
「相変わらず態度が悪いな」
「はいはい、悪かったですね」
反抗期の女子高生みたいな態度をとってみれば、彼は肩を上下にゆすって、やれやれというジェスチャー込みで声もこぼした。
「今回はどうだった?」
「……簡単、なんかじゃないよ」
顔色がすこぶる悪くて、私が手助けしなくても、普通に体調不良で死んでしまうんじゃないかって思わせるようで。そんな相手の手元には大量の薬があって、ああ、やっぱりその手段が頭に浮かぶんだなって。寂しい気持ちがなぜか沸いてきてしまった。
猫を被る、という言葉はよく使われるけれど、彼ほど猫を飼っている人物も中々にいなかっただろう。本当は物事をスムーズに進ませるために、世渡り上手くいくためのスキルだろうに、それで己の首を絞めていたのだから、何とも皮肉。
彼も、良い人だった。ずっと、自分より他人の事ばかり。自分の心配をしろよ、大切にしろよって何度思ったことか、何度口にしたことか。ああいう人は、自分を大切にしろと言われても、分からないんだろうけれど。
だからこそ、彼が最後に取った手段は、予想通りだなと思った。
私が居なくなった後は、今度はあの友人たちが、彼を見張っててほしいな。
「まさかさ、私の心配までしてくれるとは思わなかった」
「へえ、どんなふうに?」
「無理しない様にって。君はまだ子供だからなんだからって」
「あっはっは! 大学生にも言われていたのか」
彼は手を叩きながら大爆笑をする。先ほどまで持っていた、あの人の資料の束、今では白紙の紙束を、また彼に向けて投げつけてやった。
なにするんだ! と怒ってきたが知らない。そっぽを向いて、眉間に皺を寄せる。
「全く、君は想像以上に扱いが難しいな。ほら、次の課題だ」
最近は上司が部下の扱いに困る、パワハラの逆の様なものが存在していると聞いている。今の私はそれに当てはまらないかと一瞬心配したが、相手の無茶難題に応えるんだから許されてほしい。
黒髪の大学生が、脳裏に過る。無理をしない様に、か。私も頑張ってみようかな。手渡された資料を受け取り、パラパラとめくっていく。
三人目は、どうやら女性で、とっくに成人を迎えた大人のようだ。ピンクブラウンに色分けられるような、明るすぎずに、かつ甘くやさしい印象を与える髪色。メイクだって、流行りと自分に似合うものを理解しているようで、男ウケのよさそうな顔立ちだ。肩までの長さの髪は緩く巻かれており、前髪は編み込みもしている。服装も、オフィスカジュアルだろうか? これも派手過ぎずに、それでいて女性らしく可愛らしい服を纏っている。そして、今までの二人と違って、ゆるりと笑みを浮かべている。だが共通して、同じように瞳に光がない。
笑みを浮かべているのに、目に光がない。笑っているはずなのに、笑ってはいない。そのギャップが何だか未知の物に触れるようで、恥ずかしいことに少しだけ怖いと感じた。
「頑張れそうか?」
「ばかにしないでよね」
ここまでやってきて、やっぱりもうやめます、なんて言えるわけがないだろう。それも分かっているはずなのだ。彼は性格が悪い。ムカつく。
ムカつく、なんて思いながらも、素直に、もう慣れ始めている光の輪に向かって足を進めた。