「さっきから様子が可笑しかったから……もしかしたら、困っているのかなって」

「……ありがとうございます」


 私に声をかけてくれたのは、ほかの誰でもない。

 高校に入学したはかりの私をおもてなししてくれる、七瀬ちゃんだった。


「何を手伝えばいい?」


 パソコン画面を見てもいいのか確認をとってから、七瀬ちゃんはパソコンの画面と向き合う。

 私は七瀬ちゃんの邪魔にならないように、七瀬ちゃんに席を譲る。


「……お願いします」

「多分、解決できる思うよ」


 私の事情を、たいして知らなくても事は進んでいく。

 特別な話題を出さなくても、物事は先に進んでいく。


「…………ファイルの形式かな」


 軽く世間話をするべきかなとか、七瀬ちゃんの進行状況を確認するとか、私が選ぶべき選択肢はいくつか思いつく。

 でも、私は思いついた案を選ばなかった。
 
 ただただ、七瀬ちゃんの様子を見守っていた。


「ファイルの形式を変えるときはね……」


 だから、かもしれない。

 七瀬ちゃんと関わらないって選択をしたのを感づかれたのか、七瀬ちゃんの方から話題を振ってくれるようになった。


「高校のときからパソコンに慣れておくといいみたい」


 七瀬ちゃんの説明に、頷く。

 理解を、示す。

 私にできるのは、それだけ。


「って言っても、普段はパソコンなんて使わないよね」

 私にできるのは、それだけ。

 そんな風にかっこつけてみるけれど、そんなのはかっこつけているわけでもなんでもない。

 ただ、八七橋七瀬ちゃんという存在の大きさに驚いて、八七橋七瀬ちゃんが歩んでいる人生に憧れて……それで……言葉を交わすことを諦めた。


「もっと頼ってくれてもいいよ」


 八七橋七瀬ちゃんは、これからの人生で多くの人たちを助けていくと確信の持てる存在。

 七瀬ちゃん(このひと)と私は、住む世界が違う。

 そう気安く話しかけてはいけない。

 それが、私にとっての八七橋七瀬ちゃん。

 
「ファイルの準備はできたから……」


 せっかくなら。


「添付するファイルは……これでいいかな?」


 せっかくなら。

 楽しく話をしてみたかった。

 もっと、別の出会い方をしてみたかった。

 ただの先輩と後輩。

 そんな間柄から七瀬ちゃんとの関係を始めることができたら、どんなに素敵なことだったか。


「真白ちゃん?」


 そんな妄想を繰り広げてみるけれど、私は七瀬ちゃんと幼なじみだったことを後悔したくない。

 話したいって、確かな気持ちがあるから。


「大丈夫?」


 それなのに、何も気の利いた話題が出てこない。

 どうしよう。

 八七橋七瀬ちゃんは、私にとっての憧れの存在。

 ずっと話をしたいと思っていた相手でもあって、もし話すことができたら友達になりたいと思っていた相手でもあって……。