自分たちがまだ、たった17歳や18歳そこらの子供だということを、この時すっかり忘れてしまっていた。
恍惚とした気分のまま、元の椅子まで二人で戻り、璃仁は投げ捨てた自分のスマホを拾い上げた。いまだ鳴り止まない通知音が不穏な夜の始まりを告げているように聞こえるが、実際のところ璃仁の心は先ほどよりも穏やかだった。
「先輩、燃えてますね」
「うん。予想通り、メラメラしてる」
こんな状況を楽しんでいるかのように、紫陽花の目は活き活きとしていた。ああ、そうか。紫陽花は今までずっと、フォロワー十数万人の期待を背負って生きてきた。ファンが増えれば増えるほど、方々からいろんな要求が出てくる。その一つ一つに応えようとすれば当然疲れる。やがて幸福恐怖症を克服するためにやっていたはずのSNSが、紫陽花を縛りつける枷になっていたのではないか。
紫陽花の気持ちは推し量ることしかできない。でも璃仁にとっては、炎上だってなんだって、紫陽花が望んでやったことならもうなんでもいいと思った。
ふと空を見上げると、頭上で瞬く星がチラチラと浮かび上がる。だんだん目が慣れてきて見える星の数が増えていく。紫陽花の肩から次第に力が抜けていくのが分かる。都会とも田舎とも言えない街中の公園で見る星は、紫陽花のこれからの人生を陰からそっと見守ってくれているようにも感じられた。
その日、日付が変わるギリギリの時間に帰宅した璃仁だったが、両親はとっくに寝ていて、冷蔵庫に作り置きの夕飯が置いてあった。ラップにメモが添えられていて、「明日はちゃんと塾に行くこと」と申し送り事項みたいに書かれていた。ごめん、母さん。心配かけてばかりなのに、ガミガミ怒ってこない母親にそっと謝って、璃仁が大好きなハンバーグを温めて静かに食べた。