「幸せテロ。誰かやられるかな?」
紫陽花がふふふと口元を緩めながら投稿したガパオライスの写真には、端っこに璃仁のデミグラスハンバーグが映り込んでいた。
「これ、匂わせ写真とか言われますよ」
「大丈夫、大丈夫! 仮に言われてもまったく問題ナシ」
「それって……」
どういう意味ですか、と訊こうとしたがやめた。そんなことわざわざ口にしなくても紫陽花の言わんとしていることは彼女の赤く染まった頬を見れば明白だった。
紫陽花の新しい投稿に、次々「いいね」が増えていく。案の定、コメントで「彼氏?」と問われていた。紫陽花はコメントに返信しない主義みたいだが、その質問に対してまた「いいね」が溜まっている。やっぱりみんな同じ疑問を抱いたんだろう。
「いいんですか。質問に答えなくて」
「うん。こういうのはご想像にお任せする方が燃えるでしょ」
「一体誰の何を燃やそうとしているんですか?」
「さあ。でも一回炎上とかさせてみたいかな」
「物騒なこと言うの、やめてください」
けらけらとおかしそうに笑う紫陽花を、璃仁は止めることができなかった。SNSにおいて炎上だなんて絶対にしない方がいい。炎上すれば紫陽花のSNS活動だって自粛に追い込まれるだろうし、そうなれば紫陽花が幸福恐怖症を克服できなくなるかもしれないのだ。
「冗談だって。これぐらいで炎上したら世の中ずっと火事だよ」
「まあそれもそうですね」
紫陽花の瞳が爛々と輝いているのを見ながら、璃仁はデミグラスハンバーグを食べ終えた。こうして二人でご飯を食べていると、幸せだなと実感する。今年の春に勇気を出して彼女に声をかけて良かった。一時避けられたりもしたけれど、母の教えの通り諦めなくて良かった。
こんな穏やかな日々が、可能な限り続いていってほしい。
紫陽花がいつか心から幸せだと笑えるように、彼女の側にいたい。
些細な日常の一コマに、璃仁はそう願わずにはいられなかった。