もうただ楽しく買い物に来たお客さんと化していて、紫陽花は本当に活き活きとしていた。気に入った服を二つも買えてとても満足そうだ。その場でひとまずワンピースに着替え、二人はようやく周りの目が気にならなくなった。

「はあー疲れたね。ちょっと休憩でもしようか」

「そうしましょう。一階にカフェがあったと思うので」

「お、じゃあお昼ごはんにしよ! 私お腹すいた」

 紫陽花に手を引かれ、一階へと降りた璃仁たちはお昼休憩をとることにした。目をつけていたカフェは混んでいて30分以上待たされたが、二人で待つ時間は全然苦ではなかった。

「こういうのを幸せっていうのかな」

 注文したガパオライスを口に運びながら、紫陽花がしみじみと呟いた。璃仁の方はデミグラスハンバーグを頼んだのだが、ソースが肉に染みていてかなり美味しい。ぱっと選んだ店だったが30分も待って良かったと思う。

「幸せだって思ってくれるんですか」

 紫陽花が自分との時間を「幸せ」だと思ってくれているのだとすれば、これほど嬉しいことはなかった。

「幸せだと思う。思うんだけど、本気で心から『幸せ』だって思うのには、まだ抵抗があるっていうか……。頭で思っていることと心で感じていることがちぐはぐな気がする」

 紫陽花の苦悩は璃仁の胸に重く響いた。
 「SHIO」のSNSを覗いているだけでは、彼女の真意を知れなかった。こうして彼女と関わって、本音をぶつけ合って初めて、彼女が「幸せ」になることに恐怖心を抱いていると知った。

「あ、これ撮っとこう」

 カシャリ、とシャッター音がして紫陽花が食べかけのガパオライスを撮影したのが分かった。

「そういうのは食べる前に撮るもんじゃないですか?」

「いいじゃんべつに。忘れてたの」

 璃仁のスマホの通知音が鳴る。画面を見ると、【@kao_kisaさんが新しい投稿をアップしました! お気に入りの投稿を見つけてみましょう】と馴染みのある通知が表示されていた。