「違うの。私のせいなの。私はなんてことをしてしまったんだろう……」

 聞き分けの悪い子供のように、紫陽花はわっと声を上げて泣き出した。
 大丈夫だと伝えても、きっと紫陽花は反省し続けるだろう。璃仁を傷つけてしまった自責の念に苛まれて、璃仁の顔を見るだけで今日のことを思い出してしまうに違いない。璃仁は、紫陽花が自分に対してマイナスな感情をこの先ずっと抱き続けるのではないかと恐れた。

「……」

 いったいどんな言葉をかければ紫陽花の気持ちが軽くなるのかが分からない。
 沈黙が二人の間に見えない壁をつくっていくようで怖かった。
 散々悩んだ末、璃仁は上半身を起こし、いまだ方を震わせて瞳を湿らせる紫陽花の背中に、手を伸ばす。
 言葉ではダメだと思った。紫陽花の気持ちは璃仁にも痛いほどよく分かっていた。だから、せめてその心の傷が軽くなるように、抱きしめたかった。

 彼女の背中にすっと手を添えると、一瞬彼女は硬直して身体に力が入るのを感じた。だが璃仁がそのまま彼女を引き寄せてそっと抱きしめると、彼女の身体からふっと力が抜けていくのが分かった。紫陽花が安心して璃仁の肩に自分を預けてくれているような気がして嬉しかった。


「俺、紫陽花先輩が好きなんです」


 静かな病室に響く一世一代の告白が、まるで自分の口から出たものではないかのような錯覚に襲われる。紫陽花がどんな顔をしているのか璃仁には見えない。喜んでくれているか、びっくりしているのかも分からない。彼女と初めて会った時、「告白しようとしているわけでないよね」と確認されたことが頭をよぎる。確かに出会ってすぐに告白するのは相手のことを考えていないと言っているようなものだ。紫陽花が嫌悪感を抱くのも当然だと思う。でも今日の璃仁は違う。紫陽花と話をする中で、自然と彼女に対して芽生えた感情を抑え切れなくなったのだ。

 告白など生まれて初めてのことで、璃仁の心臓はうるさいほどに脈打っていた。その音が紫陽花に伝わってしまわないかと恐れた。だが、紫陽花は紫陽花で息を呑み、なんと返事をしようか迷っている様子だった。

「返事が欲しいんじゃないんです。ただ、伝えたかった。俺は紫陽花先輩が好きだから、紫陽花先輩には笑っていて欲しい。紫陽花先輩に悲しそうな顔なんて似合わないです。みんなの人気者の紫陽花先輩は、いつも凛としてる。その辺の男なんて目じゃないって感じで堂々と胸を張って歩いていく。俺はそんな紫陽花先輩を、そばで見ていたいと思っているんです」