どうやら、私は自分で思っている以上に、あの騒動に気が滅入っているらしい。

 この写真を撮っても投稿はしない。

 それなのに、聞こえるのだ。

『ゆっこってあの子らしいよ』
『風景の写真ばっかり』
『私たちとは違うって言いたいのかな』
『そこまでして、春希の気を引きたいってこと?』

『気に入らない』

 不特定多数の声は、うるさかった。

 私に向けられる悪意の視線は鬱陶しかった。

 それでも強くいられると思っていたけど、限度ってものがある。

 こんなにも悪者のような扱いをされて、平気ではいられない。

『ゆっこのやりたいことを我慢しなくていいんだからね』

「無理だよ、るんちゃん……」

 写真を撮ることが好きで、今もこの景色を残したいと思うのに、どうしても、恐怖というものに負けてしまう。

 悔しさからか、視界が滲んでいく。

「大丈夫ですか?」

 涙が落ちる。

 そう思ったときに横から声が聞こえた。

 他人に涙を見せたくなくて、私は慌てて涙を拭う。

「はい、大丈夫です」

 声がしたほうを見ると、一人の黒髪メガネ男子生徒が立っている。

 制服が鈴梨学園のものだ。

 同じ学校というだけで声をかけてきたのだろうか。

 しかし今の私は、鈴梨学園の人には極力会いたくない。

 会話が続いてしまう前に逃げようと、背中を向ける。

「月森優衣子さん。ですよね」

 知らない人に名前を呼ばれ、振り向いてしまう。

 また、噂の的にされるのか。

 やっぱり逃げるべきだろうと思って、私は今度こそその場を去ろうとする。

「俺、水野(みずの)悠斗っていいます」

 ユウト。

 その名に、私の足は止まった。

「もしかして、ハルキの友達の?」
「知ってたんですね。はい、そうです」

『春希がゆっこってアカウント名の人を探してるんだって!』

 それは今日の昼間の出来事。

 もう、私の存在が本人に近い人に知られてしまったらしい。

「じゃあ、伝えておいてくれますか。私にどんな用があるのか知りませんけど、私を騒ぎの中心にしないでほしいと」

 少し冷たく言い過ぎたようで、水野君は戸惑っている。

 いくら迷惑だからといって、水野君に当たるのは違った。

「友達申請も、迷惑でしたか?」

 謝ろうとすると、水野君が先に言った。

「あれは、迷惑というか……私、SNSが苦手なので、どうすればいいのかわからなかっただけというか……」