私が投稿をしなくてもるんちゃんがなにも言わなくなってから、さらに数日後。

 事態は最悪な方向へ動き出した。

「春希がゆっこってアカウント名の人を探してるんだって!」

 昼休み、教室で女子が大きな声で言ったから、教室にいる全員に聞こえた。

 私は、聞こえなかったことにした。

「聞いた?」

 るんちゃんはにやにやと笑う。

 私は、無関係であると主張するように本から視線を上げない。

「聞いてない」
「やっぱりあのアカウントは、悠斗くんのものだったんだよ」

 私が関わりたくない、面倒であると思っていることには気付いていないらしい。

 こんなふうに騒がれるのは嫌いだと知っているはずなのに、るんちゃんはこの状況を楽しむことでいっぱいらしい。

「……るんちゃん、私は関わりたくないの。だから、しばらくあだ名で呼ぶのは禁止ね」
「どうして?」

 私がそうお願いしている理由がわからないというより、寂しそうだ。

 私だって、こんな理由で慣れ親しんだ名を捨てたくはない。

 でも、なにがきっかけで絡まれるかわからない以上、予防線は貼っておくべきだろう。

「この騒ぎが落ち着くまでだから。お願い、るんちゃん」
「……わかった。優衣子」

 るんちゃんに名前を呼ばれて、私がお願いしたくせに、寂しくなる。

 早く落ち着いてくれることを願いながら、読書を進める。

「ねえ」

 すると、一人の女子生徒に声をかけられた。

 後ろに数人の女子を引き連れて。

 なんて最悪な状況だろう。

 私の穏やかな学校生活が壊される予感。

「月森さんって、桜庭さんにゆっこって呼ばれてたよね」

 知られていたとは、思わなかった。

 これなら、るんちゃんにあんなお願いはしなくてもよかったのかもしれない。

「……だから?」

 面倒ごとに巻き込まれたくない一心で、無意味に敵対心をむき出しにする。

 視界の端でるんちゃんがおどおどしているのが見える。

 るんちゃんが心配するほどの喧嘩には発展しないはずだから、そこまで心配しなくてもいいのに。

 この程度で不安になるるんちゃんを可愛らしく思いながら、女子たちと向き合う。

「このアカウントって、月森さんの?」

 後ろに控えていた女子が、スマホ画面を見せてくる。

 間違いなく私のもの。

 友達登録をしているのがるんちゃんだけだから、ごまかせそうにない。

「それがなにか?」

 諦めて会話をしようとしたその態度が、相手への刺激となってしまった。