「ゆっこ、投稿しなくなったね」

 数日後の朝、るんちゃんは挨拶をするより先に、文句を言ってきた。

 膨れた頬が可愛いなんて、思っている場合ではないらしい。

 私は『U』の存在が怖くなって、あの日以来、投稿する直前の画面に行きながら、それを削除することを繰り返していた。

 それをるんちゃんに説明すると、るんちゃんは首を傾げた。

「どうして繋がらないの?」
「いや、怖くない? よくわからない、知らない人に見られるなんて」
「ゆっこ……SNSってそういうものだからね?」

 そう言われてしまうと、私にはやっぱり、SNSは向いていないのだろうと思った。

「Uって、誰なんだろうね。メッセージ送ってみる?」

 るんちゃんは自分のスマホを操作し始めた。

 どうしてるんちゃんは、こんなにも前向きでいられるのか。

 どうして恐怖を抱かないのか。

 不思議に思っていると、るんちゃんの表情が変わった。

 なにか見つけたらしい。

「どうしたの?」
「Uが友達登録してるハルって、一年で人気の春希(はるき)くんだよ」

 るんちゃんは興奮気味にハルのアカウントを見せてくれるけど、相変わらず一人の男子生徒の写真が並んでいる。

「……知り合い?」
「ウソでしょ……ゆっこ、この学園に興味なさすぎない?」

 るんちゃんは信じられないという顔をしている。

「私はるんちゃんと高校生活を送りたかっただけだから」

 正直に言っただけなのに、るんちゃんは照れている。

 こういうところを見ていると癒されるから、本当、同じ学校にして正解だった。

「じゃなくて。さっきも言ったけど、春希くんはこの学園で人気な男子。で、春希くんの友達は悠斗(ゆうと)くん。明るい春希くんとは真逆で、物静かな人なの。ちょっと怖いって言われてて、春希くん以外の人と話してるところはあんまり見たことないんだって」

 彼氏持ちが、詳しすぎないですか。

 そんなことを言えば、私が知らなさすぎるだけだと返ってくるのが予想できるから、言わない。

「じゃあ、このUってのは、ハルキくんのお友達のユウトくんってこと?」
「きっとそうだよ!」

 るんちゃんは目を輝かせている。

 言葉にされなくても、なにを期待しているのかがわかる。

「私は、関わりません」

 はっきりと言い、スマホをカバンに入れる。

「えー。どうして?」

 るんちゃんは酷くつまらなさそうにする。

「人気者と関わったってろくなことないでしょ」

 口を尖らせるるんちゃんが可愛らしくて、ついつい“仕方ないなあ”とわがままを聞いてあげたくなるところだけど、やっぱりデメリットが大きい気がする。

 ゆえに、私は冷たく突き放すことにした。