昼休みになると、るんちゃんはお弁当を持って私の前の席の椅子に座る。

「さて、なんの写真を投稿したい?」
「どれがいいと思う?」

 この時点で興味を失っていることがわかりそうなのに、るんちゃんは気付かずに、ずっと楽しそうで、私のスマホのギャラリーを見ていく。

「これ、綺麗だね」

 るんちゃんが言った写真は、一昨日撮ったものだ。

 その日の朝、夜中に雨が降っていたようで、道端の葉には雫がたくさん付いていた。

 それが綺麗だったから、スマホを向けた。

 たったそれだけの一枚。

「これにしようよ」

 るんちゃんにスマホを返されるけど、どうやって投稿すればいいのか知らない。

 るんちゃんにすべてを任せようと思ったのに、笑顔で断られてしまう。

 私がやらなければ意味がないということだろう。

 わかっている。

 渋々、アカウントを登録して以来開いていなかったアプリを開く。

 おすすめの投稿が、たくさん流れてくる。

 綺麗で楽しそうなものが、溢れている。

 私の投稿なんて、必要がなさそうだ。

 そう思って引き返そうとしたけど、るんちゃんはそれを見抜いているのか、その視線が逃がしてくれない。

 仕方なく、るんちゃんにも画面が見えるように、机にスマホを置く。

 そしてるんちゃんの指示通りに投稿をしていく。

「コメントはなくても投稿できるけど、せっかくだし、なにか書いてみようよ」
「そう言われても……」

 書くことなんてないから、ただ『朝露』とだけ文字を打った。

 そして『投稿する』と書かれた部分をタップする。

「これで投稿完了。これからゆっこの投稿、楽しみにしてるね」

 こんなにも遠回しの圧があるのか。

 私は苦笑しか返せない。

「私、ゆっこの写真好きなんだよね」
「るんちゃん、それはずるい」

 るんちゃんはただ笑っているだけ。

 本当に、ずるい子だ。

 私は一つ、ため息をつく。

「あまり期待はしないでね」

 私が投稿を続ける道を選んだからか、るんちゃんは笑顔で頷いた。

 投稿を目的としてしまうと、写真を撮ることが楽しくなくなりそうで嫌だったけど、どうせ見るのはるんちゃんしかいない。

 それは今までと変わらない。

 ただひと手間増えるだけ。

 るんちゃんが満足するまで、続けてみよう。

 そんなことを思いながら、私はスマホをカバンに戻し、弁当箱を開いた。