「それはもちろん。ゆっこさんの写真を見て、話してみたいって思ったのは本当。でも、ここまで大きな騒ぎになって、月森さんに嫌な思いをさせることになるとは思ってなかった」

 宇佐美君の罪悪感に吞まれそうな表情は、信じたいと思った。

「春希は自分がどれだけ話題の中心になるのか、理解してない」

 水野君は冷たい声で言いながら、階段を降りてくる。

 私たちと同じ場所に立つと、宇佐美君だけが、階段の上に立っている。

「これが俺たちの立場。どうしたって春希は上に立ってしまう。自分で望まなくても」

 水野君は本当に宇佐美君の友達なのかと思ってしまうほど、突き放した言い方だった。

 宇佐美君はそんなことを望んでいないと、その眼が語っている。

 水野君はそのまま階段をすべて降りて踊り場に立ち、私たちのほうを見た。

「春希のものと思われるようなアカウントを作ることを提案したのは、俺です。春希はあんな見た目をしておきながら、コミュ障なんです。女子に騒がれるのは現実世界だけで疲れているのに、ネットでもそうなると、春希は壊れてしまう。それを防ぐために、俺がなりすましのようなことをするのを提案しました」

 宇佐美君を想っての選択。

 さっきの発言で二人が友達だということを疑ってしまったけど、これを聞けば、そんなのは杞憂だったのだとわかる。

「春希自身が月森さんの投稿に興味を持ったのも、実際に話してみたいと思っていたのも事実です。直接話す勇気がないなんて言う、ヘタレではありましたけど」

 水野君は私たちの後ろに立つ宇佐美君に視線をやる。

 そうか、だからあのとき、水野君が私に声をかけてきたのか。

 あの行動の真意を知り、私は自分が思っているよりも、ショックを受けた。

「ただ、その話を周りに聞かれてしまって、こんなことになりました。変に巻き込んで、すみませんでした」

 水野君まで、頭を下げた。

 それは、私にとってなによりもつらい謝罪だった。

 宇佐美君も隣に並んでまた頭を下げて、なにか言うべきだってわかっているのに、言葉が出てこない。

「ゆっこ……」

 私の感情を読み取ったるんちゃんは、言葉に迷いながら、泣きそうな声で私を呼んだ。

 どうするのが、正解なんだろう。

 宇佐美君は私のことを知りたいと思ってくれて。

 だけど私は、水野君のことを知りたくて。

 想いの矢印が、上手に向いてくれていない。

「今後は月森さんには関わらないようにするので……本当に、ごめんなさい」

 私が迷っている間に宇佐美君が言って、二人は教室に戻ろうとする。

 その選択は、お互いにとっていいものではないと、直感で思った。

「あの、友達に、なれませんか」

 私は去ろうとする二人の背中に呼びかけた。