「春希、この人になにかしたの?」

 見るからにスクールカースト上位の女子が、宇佐美君の背後に立ち、私を睨みつける。

 これほどまでに私のことが気に入らないという視線を向けられたのは、騒ぎが起こり始めて以来だ。

 しかしどの視線よりも鋭く、私は負けて目を逸らした。

「月森さんというか、この学校のみんなに、かな」

 宇佐美君がなにを言おうとしているのかは、きっと私とるんちゃん、水野君しかわからない。

 そんな言い方をしてしまうと。

「どういうこと?」

 深堀されるに決まっている。

 わざわざややこしいことをしたのにはきっと、なにか理由があるはずなのに。

「春希」

 ずっと隣で黙って聞いていた水野君が止める。

「いいんだよ、悠斗」

 よくわからない会話がされている間に、野次馬が集まってしまった。

「ねえ春希、はやく説明して」
「月森さんに興味を持ったのは春希じゃなくて、俺ってこと」

 宇佐美君が口を開くと同時に、水野君が言った。

 宇佐美君の驚いた顔を見るに、きっと言おうとしたのは、このことじゃない。

 でも、水野君に言われてしまった以上、訂正もなにもできない。

 そんな困惑した顔をしている。

「そうなの?」
「え、あ、うん……」

 宇佐美君は明らかに困惑した声で頷いた。

 彼女も疑いの目を向けるけど、彼女にとって都合のいい展開だからか、信じることにしたらしい。

「それは確かに、この子に謝らないとね。期待させてごめんねって」

 今すぐにでも、鏡を見てほしい。
 それほどに醜い顔をしている。

 だけど、火に油を注ぐようなことはしない。

 私はそう思ったのに、るんちゃんは怒りを必死に堪えている。

「るんちゃん」
「わかってるよ、我慢する」

 いっそ暴走してもらったほうが、お互いに楽になれるのかもしれない。

 だけど、これは私とるんちゃんだけの問題では済まない。

 宇佐美君たちも巻き込んでしまう。

「じゃあ、そういうことだから」

 少しでも早くこの場から離れたくて言うと、宇佐美君の瞳が私を引き留める。

 だけど、次に周りの目を気にしたから、ここでは言えない話がしたいように見えた。

 ひとまず気付かないふりをして教室を出て、るんちゃんに非常階段に行くとメッセージを送ってもらった。

「あー、気に入らない!」

 青空に向かって、るんちゃんは思いっきり叫ぶ。

「ごめんね、るんちゃん。我慢させてばっかりで」
「ゆっこが謝る必要なんてないから!」