「友達登録はできたから、あとはゆっこがメッセージを送るだけだよ」

 空き教室に移動し、窓際の前の方に座ると、るんちゃんはスマホを差し出してきた。

 いつの間にそんなことをしていたのか。

 準備が万端すぎて、もはや怖かった。

「……やめる?」

 るんちゃんはスマホを引っ込める。

 るんちゃんにここまでさせておいて、逃げるのは違う気がした。

 手を伸ばすと、るんちゃんは笑顔でスマホを渡してきた。

 向き合って座っていたのに、るんちゃんはわざわざ隣に移動してきて、スマホの画面をのぞき込む。

 こんなにも見張られた状態でメッセージを打つのは緊張する。

『こんにちは、月森です。友人のアカウントを借り、メッセージを送らせていただきます』

「ゆっこ、固すぎ」

 るんちゃんは信じられないという顔をしている。

「そのまま社会人みたいに堅苦しいメッセージを送る気? 高校生だよ? もっとフレンドリーにいこうよ」
「私には無理」

 るんちゃんの提案を却下し、続きを打つ。

『先日水野君と話し、もっと仲良く』

 そこまで打って、私はメッセージを消した。

「なんで消しちゃうの?」
「いや、これはさすがに私らしくないというか、恥ずかしい」

 本心ではあるけど、きっと、送ったあとに恥ずかしさのあまり後悔してしまうやつだ。

 しかしそうなると、なにを打つのが正解なのかわからなくなる。

「仲良くしたいでいいのに」

 るんちゃんは言いながら、私の手からスマホを取り上げる。

「ちょっと」

 抵抗しようとしたけど、るんちゃんのスマホである以上、強くは言えない。

『こんにちは、月森です。友達のアカウントを借りてメッセージを送ってごめんなさい。いきなりですが、明日、一緒にお昼休みを過ごしませんか?』

「どう?」

 るんちゃんは満足そうにしている。

 私の堅苦しいメッセージが、柔らかくなっている。

 いや、待て。

「るんちゃん、これ、送ってない?」
「……あ」

 その反応を見るに、送る前に私に確認をさせるつもりだったのだろう。

 だけど、勢いで送信してしまった。

「るんちゃん……」
「ご、ごめん、ゆっこ。こんな強引なことするつもりはなくて」

 るんちゃんが慌てて謝る姿を見せられると、責められない。

 それに、送ってしまったものはどうしようもない。

「……いいよ」

 私が許すと、るんちゃんは胸をなでおろした。

 そして元の場所に戻ると、弁当箱を開く。