始業のチャイムが鳴るまで、生徒のほとんどはスマホを手放さない。

 友人との雑談を楽しみながらも、その片手にはスマホが握られている。

 そこまで、スマホが大切なのだろうか。

 そんな風に過ごしているから、大人の実験台になるのに。

 内心ではそう思っているけれど、この学園に通っている時点で、説得力なんてない。

 鈴梨(すずなし)学園には、鈴梨学園に通う生徒のみが利用できる交流アプリがある。

 普通のSNSのように投稿をしたり、メッセージのやり取りをしたり。

 普通と違うのは、学校からのメッセージを受け取ることができることだけだろうか。

 学校側が運営しているから、大きな問題が発生したことは今のところ聞いたことがない。

 なんて、私が興味がなくて知らないだけかもしれないけれど。

「おはよう、ゆっこ」

 このご時世にスマホではなく紙媒体で読書をしていたら、友人のるんちゃんこと桜庭(さくらば)香織(かおる)に声をかけられた。

 私は本を閉じる。

「おはよう、るんちゃん」

 るんちゃんは朝から満面の笑みだ。

「るんちゃん、なにかいいことでもあった?」

 るんちゃんは待ってましたと言わんばかりに、さらに幸せそうに笑う。

 そして、私にスマホの画面を見せつけてきた。

 写っているのはるんちゃんと、知らない男の子。

「もしかして」
「彼氏ができました」

 るんちゃんはピースサインを作る。

「おめでとう」

 これだけ幸せが溢れているのだから、お祝いの言葉をかけるのは当然のこと。

 ただ一つ気になることがあるけれど、それすらもどうでもよくなるくらい。

「ゆっこも鈴梨アプリで投稿したり友達登録したりすればいいのに」

 二人の出会いがどんなものだったのか、気になっていたのに、一瞬で理解してしまった。

 アカウントがないわけではない。

 というか、この学園に入学した時点で、アカウントは作らされている。

 本名から外れない程度のニックネームでの登録が可能で、私は『月森(つきもり)優衣子(ゆいこ)』ではなく、るんちゃんに呼ばれている『ゆっこ』で登録している。

 入学して二か月経ったけど、投稿数はゼロ。

 興味がないこともあるが、そもそもなにを投稿すればいいのかがわかっていない。

「日記帳みたいに使うこともできるよ? ゆっこ、景色の写真を撮るのが好きでしょ? そういうのを、記録的に一言添えて投稿すればいいんだよ。見れるのはこの学園の人たちだけなんだし、不特定多数に見せるよりはよくない?」

 それはありかもしれない。

 友達数を1から増やす気はないけれど。

 すると、るんちゃんがにやにやと笑っていることに気付いた。

 どうやら、私が興味を持ったことがわかったらしい。

「……昼休み、投稿の仕方、教えてくれる?」
「もちろん」

 そんなに私がアプリを使うことが嬉しいものなのか。

 よくわからなかったけど、始業を告げるチャイムが鳴り、るんちゃんは自分の席に移動した。