掛巻(かけまく)(かしこ)諸神等(もろかみたち)廣前(ひろまえに)に (かしこ)(おそれ)みも(もう)さく 宇豆(うづ)幣帛(みてぐら)(ならび)種々(くさぐさ)の物を (ささ)(そなえ)丹精(きよきこころ)(まこと)(さき)とし 神代(かみよ)古風(のり)崇敬(あがめ) 正直(まさにすなお)根元(もともと)歸依(かえりより)し────」



その声は優しく鼓膜を震わして、お腹のそこをじわっと熱くする。

木漏れ日を浴びているかのように全身を柔らかな光が包み込んでいる心地だ。つま先から指先から、力が溢れて身体中を駆け回る。



邪曲(よこしま)末法(すえののり)棄捨(すて)て 今神道(いまかみのみち)妙行(たえなるわざ)奉祈願(きがんたてまつり) 吾國根元(わがくにはじめ)(はらい)(もっ)て 称辭(たたへごとを)奉此状(たてまつるこのさま)を (たいら)げく(やすら)げく聞食(きこしめし) 夏目瑞祥身心安穏(みこころやすく) 衆病(もろもろのやまい)悉除(ふつにのぞき)壽命長延(いとちながくのび) 福禄(ふくろく)圓満(えんまん)にして 家内(いえのうち)親属(うからやから)朋友(ともだち)までも 事故(ことゆえ)無く愚なる心を(あか)しめ(たま)ひ 何はの事も(たる)と思より 楽しきは(なけ)れば足ことを知しめ 牛馬(うひうま)(ひづめ)(いたる)まで 安穏息災(あんのんそくさい)にして憐愍(めくじとをぼすみこころ)を 垂給(たれたま)へと(かしこ)(かしこ)みも申す……」


言祝ぎに満ち溢れた一点の曇りもない澄み通った声だった。

胸の中にずっとあった影が、すうっと引いていく。


優しい、どこまでも優しく温かい。



「────……辭別(ことわけ)(もう)さく穩気(さわり)不浄(げかれ)不信(うたがいて) 懈怠(おこたり)罪咎(とが)祟有(たたりあり)て 諸神等(もろかみたち)御心(みこころ)不叶共(かなわずとも) (ひろ)(あつ)仁慈(いつくしみ)垂給(たれたまい)て 清き御心(みこころ)(なだめ)(ゆるし)(たまい)て 神直日命(かんなをひのみこと)大直日命(おをなほひのみこと)と 見直し聞直し給て 祈願(きがん)圓満(えんまん)感應(かんおう)成就(じょうじゅ) 無上(むじょう)霊宝(れいほう)神道(しんどう)加持(かじ)



深い一礼のあと揖をして頭をあげると同時に聖仁さんは後ろに数歩よろめくとその場にどさりと座り込んだ。

驚いて咄嗟に肩を支えると聖仁さんは「ごめん、ありがと」と青い顔で微笑んだ。