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 週末明け、予備メガネを掛けて学校に到着すると、なぜだか救急車やパトカーが多く停まっていた。

 立ち入り禁止の黄色いテープが貼られ、校門は生徒や野次馬で溢れかえり騒然としている。

 ちょうど近くに紫乃のクラスの担任がいたので、聞いてみることにした。

「なにがあったんですか?」
「それが……って、山田じゃないか! どうしたんだ金曜は急に早退して!」
「ちょっと気分が悪くて。それより学校でなにかあったんですか?」

 釈然としていない担任に話を聞き出したところ、どうやら校内に突然瘴気ゲートが発生したらしい。
 それによって魔物と魔獣が数体校内を徘徊しているそうだ。
 しかも数人の生徒が取り残されており、紫乃をパシっていた陽キャグループと、そんな奴らにイジメられていた他クラスの生徒だという。

(私をパシるに飽き足らず、他のクラスの人もイジメてたなんて。というか、イジメてるって知ってたのに放任してたんだこの担任)

 紫乃はむっと眉をしかめ、「教えてくれてありがとうございます」と言って担任から離れていく。

「まて山田! どこに行くつもりだ!」
「ここにいても邪魔になってしまうので帰ります。魔物と魔獣が出たなら、今日は休校ですよね」
「た、たしかにそうだが」

 それならそうと知らずに登校してきた他の生徒に知らせればいいのに、と思いながら紫乃は校門から離れていく。
 そういえばあの担任、紫乃のことをあからさまに見下していて、もともとあまり好きではなかったのだ。
 
(裏門も閉鎖されているだろうし、この辺りでいいかな)

 辺りをキョロキョロと確認したあと、休日のときと同様に魔法で自分の姿を透過させた。
 
 紫乃はすんなりと学校の敷地内に入ることに成功し、校内を走る。
 何となく気配がする方向へ進んでいれば、校舎裏で魔物に追い込まれる陽キャグループを発見した。
 紫乃は渡り廊下の窓から校舎裏を覗き込むように顔を出す。

(よかった、怪我はしていないみたい。だけど、魔物だけ?)

 担任の話では魔獣も出現したとのことだが、紫乃が目視で確認できる範囲では、魔物が三体しかいない。イジメられていた生徒の一人も。
 魔獣は魔物よりも知能が高く、頭を使って攻撃してくるため厄介なのだが、どこにいったのだろう。

(考えるより、まずはあの魔物を退治しないと)

 そして紫乃が背後から魔物を倒そうと片手を構えた瞬間、空から雷が落ちてきて、魔物三体に命中した。紫乃の魔法ではなく、別の誰かが放った魔法である。
 直後、どこからともなく現れたのは男子生徒だった。

(あれは)

 見覚えのある後ろ姿に紫乃は目を細める。
 その男子生徒は催眠魔法を施したようで、助けられた陽キャグループは焦げた魔物の前ですやすやと眠っていた。

(……!!)

 自分が介入するまでもなかったと手を下げた時、紫乃は凄まじい気配の動きに気がついた。
 咄嗟に窓に足をかけ、校舎裏へと飛び降りる。

『グルルルル!!!』

 紫乃が飛び降りたと同時に校舎の陰から姿を現したのは、先ほど気になっていた魔獣だった。口には一人の生徒を咥えており、あれがおそらくイジメられていた生徒だろう。

 魔獣は校舎の壁と同化するように潜んでいたようで、男子生徒の背中に噛み付こうと飛びかかった。

「動かないで!」

 背後を取られた男子生徒は、急いで魔法を放とうとする。けれど一足早く、紫乃は落下しながらそう叫んだ。

 近くに木や草が生えていたこともあり、紫乃は植物に意思を伝達させて協力を求める。
 呼応するように地面からは太い蔦が現れ、木の枝も滑らかな動作で長く伸びると、魔獣に巻き付くようにして動きを封じた。

 しばらく魔獣は抵抗していたが、やがて力尽きると首の力を無くして倒れ込んだ。咥えられていた生徒もそのまま地面に落ちる。見た限り命に別状はなさそうだ。

 念の為にと蔦は魔獣に絡ませたまま、紫乃はふうっと息をつく。
 そして近くにいる男子生徒の顔を見上げ、あっと声を出した。

「おしるこくん!?」

 陽キャグループの男に絡まれて以来学校に姿を見せなかったクラスメイトと、紫乃は意外な形で再会を果たしたのだった。