「や、八重! お前、家を出て居なさいと……!」
「浅黄さま、その娘は使用人です。宮森さまとは世界が違う生き物です!」
「八重、浅黄さまから離れなさい! 浅黄さまはわたくしの旦那さまになる方です! 浅黄さま。その栞はわたくしがその子に貸したものです。わたくしのものです!」
叔父たちの声に、しかし八重は負けなかった。浅黄はちゃんと八重を迎えに来てくれた。であれば、彼の思いに応えたい。八重は浅黄の言葉を待った。
「あやめ殿。この栞があなたのものであるなら、この桜をあなたに贈った理由についても、勿論ご存じのはずですよね?」
浅黄の言葉に、あやめは口ごもる。
「そ、それは……」
「あやめさま、嘘は止めてください。この桜は、お名前が同じだからと、以前お会いした記念に、私が浅黄さまから直接頂いた、大事な桜ですので」
凜とした姿勢であやめたちに向き合い、八重ははっきりと言い切った。
「この桜は、鬱金桜。……鬱金桜は、別名浅黄桜というそうです。浅黄さまはおじいさまが大事にしておられた桜の名を頂いたことを、とても喜んでおられました」
八重のその言葉に浅黄の祖父が目を開く。
「幼い頃、浅黄が儂の桜を女の子にプレゼントしたと言っておったが、お嬢さんがその女の子だったのか……。たしか、遠藤子爵のお嬢さんだったと、記憶しておる。子爵家のお嬢さんが、どうして斎藤家の使用人など……?」
祖父の疑問に答えるのは、浅黄だ。