あやめの出席するパーティーが催されていた頃、八重は手紙を貰って夜の公園に足を向けた。手紙には『幾たびも 君が呼びし名 こころ燃ゆ 見ずとも香る 桜の如し』と添えられており、浅黄が八重に向ける想いが本気だと告げていたからだ。
タッと公園の入り口を入ると、夜の星空の許、つぼみの膨らんだ桜の木の下で浅黄が待っていて、八重は思わず駆け寄った。

「浅黄さま」

「八重さん」

腕を伸ばしてくる浅黄の手をしっかりと握る。暗闇だが、浅黄の真剣なまなざしは痛いほどわかった。

「手紙を読んでくれたんだね。君も決意を決めてくれただろうか」

「心は決まっております。ですが、私は浅黄さまに利する、何をも持っておりません。それでも浅黄さまが私をと思われる理由は何ですか」

ただの傘を貸しただけの通りすがりになってもおかしくないはずだった。それを、おいえの利も曲げて八重にこだわる理由は何だろう。八重は問うように浅黄を見たが、浅黄は微笑むだけだ。

「君が僕の為に利するものは、これから持てばいい。僕が、灰かぶり姫の靴を用意するよ」

そう言って浅黄は、八重の左目の下にあるほくろをそっと撫ぜた。

「宮森家が浅黄として、君に求婚する。僕の本気を、受け取ってくれ」

そのまま瞼に口づけを落とされる。何が何でも浅黄についていくと、八重は決めた。