「あのう、もうお店閉めるところだったんですか?」
「いえ、違いますよ。暖簾、見たでしょ」
「『ズボラ飯こころのこり』ですよね」
「あるもので適当に作るからズボラ飯」
「じゃあ、『こころのこり』は?」
「心残りっていう本来の言葉と、肩こりみたいな心の疲れを癒やす『心の凝り』をかけてあるんですよ」
ああ、そうなんだ。
……って、納得してる場合じゃなくて、結局、メニューはないのね。
「ごめんなさい。乾き物しかないなら、お金払って出ます」
「いやいや、心配しないで。大丈夫ですから。怪しい店じゃありませんよ。ご飯はちゃんと土鍋で炊いてますし」
と、言われてみると、たしかに厨房からふわりといい香りが漂ってくる。
「土鍋なんで、お焦げも楽しめますよ」と店員さんが珠暖簾の奥に戻る。
「はあ、じゃあ」と、私はまた炬燵に足を入れた。
なんか、土鍋ご飯という言葉にうまく丸め込まれちゃった。
ふと、課長に丸め込まされた苦い記憶を思い出して、焼酎をクイッとあおり、ポテトチップスをつまむ。
――うん、普通の薄塩味だ。
さきイカも誰もが思い浮かべるごく普通の味だ。
「味変で明太マヨと鰹節をどうぞ」と、厨房からカウンター越しに調味料をのせた小皿が差し出される。
――あれ?
背が高いはずのお兄さんとなんで目線が合うんだろう。
ちらちらと厨房の方を見ていたらお兄さんが説明してくれた。
「この建物ね、裏にあった川に合わせて床が作られてたから、こっち側が低くなってるんですよ」
へえ、そうなのか。
「お客さんとちょうど目線が合って話しやすいですね」
「ええ、そうなんですよ」
とはいえ、明太マヨも鰹節も市販の物で、さきイカにつけてみたところで味も想像通りだ。
やっぱりこのお店、失敗だったかな。
でも、他に開いてるお店もなかったしな。
こんな都会の谷間みたいな所にアパート借りて住んでるのがいけないのかな。
お家賃が安い分だけ不便だもんね。
はあ、なんか暗くなる一方だな。
「いえ、違いますよ。暖簾、見たでしょ」
「『ズボラ飯こころのこり』ですよね」
「あるもので適当に作るからズボラ飯」
「じゃあ、『こころのこり』は?」
「心残りっていう本来の言葉と、肩こりみたいな心の疲れを癒やす『心の凝り』をかけてあるんですよ」
ああ、そうなんだ。
……って、納得してる場合じゃなくて、結局、メニューはないのね。
「ごめんなさい。乾き物しかないなら、お金払って出ます」
「いやいや、心配しないで。大丈夫ですから。怪しい店じゃありませんよ。ご飯はちゃんと土鍋で炊いてますし」
と、言われてみると、たしかに厨房からふわりといい香りが漂ってくる。
「土鍋なんで、お焦げも楽しめますよ」と店員さんが珠暖簾の奥に戻る。
「はあ、じゃあ」と、私はまた炬燵に足を入れた。
なんか、土鍋ご飯という言葉にうまく丸め込まれちゃった。
ふと、課長に丸め込まされた苦い記憶を思い出して、焼酎をクイッとあおり、ポテトチップスをつまむ。
――うん、普通の薄塩味だ。
さきイカも誰もが思い浮かべるごく普通の味だ。
「味変で明太マヨと鰹節をどうぞ」と、厨房からカウンター越しに調味料をのせた小皿が差し出される。
――あれ?
背が高いはずのお兄さんとなんで目線が合うんだろう。
ちらちらと厨房の方を見ていたらお兄さんが説明してくれた。
「この建物ね、裏にあった川に合わせて床が作られてたから、こっち側が低くなってるんですよ」
へえ、そうなのか。
「お客さんとちょうど目線が合って話しやすいですね」
「ええ、そうなんですよ」
とはいえ、明太マヨも鰹節も市販の物で、さきイカにつけてみたところで味も想像通りだ。
やっぱりこのお店、失敗だったかな。
でも、他に開いてるお店もなかったしな。
こんな都会の谷間みたいな所にアパート借りて住んでるのがいけないのかな。
お家賃が安い分だけ不便だもんね。
はあ、なんか暗くなる一方だな。