と、その時だった。
「ああ、お客さん?」
珠暖簾をじゃらじゃら鳴らしながら顔を出した店主を見て、私はまた固まってしまった。
背が高くてつるりとした肌のお兄さんなのに、なぜかエプロンがピンクなのだ。
「どうぞ、遠慮なく上がってください。寒いでしょう。炬燵にどうぞ」
結構声は低めで、まつげの長い目で見つめられるとなんだか抱きしめられたようにドキドキしてしまう。
私は誘われるまま上がり込んでいた。
「今お酒とお通し出しますね」
「あの、お酒は……」
食事だけでいいんだけどな。
「一杯だけサービスしておきますから」
ああ、そうなんだ。
じゃあ、遠慮なく。
炬燵に足を入れたところで、手に収まるぐらいの青みがかったグラスに焼酎のお湯割りが八分目まで注がれて差し出された。
グラスには金や銀の粉が封じ込めてあって、まるで星空のように輝いている。
こんな都会の谷間は暗く沈んでるくせに星空なんて見えないのにね。
ふう。
ため息なのか、肩の力が抜けたのか、自分でもよく分からない。
「あったまるでしょう」
「ええ。いいグラスですね」
「北海道で工房を開いた職人さんの物です」
「へえ、手作りなんですか。こういうのでいただくと、お酒も五割増しくらいで味わい深くなりますよね」
いったん奥に引っ込んだピンクエプロンの店員さんがすぐに戻ってきた。
「とりあえず、こちらをどうぞ」
笑顔とともに差し出されたのはポテトチップスとさきイカだ。
乾き物か。
これがお通しってことね。
「食事は何があるんですか?」
「うちはね、あるものしかないんですよ」
はあ?
「じゃあ、なにがあるんですか」
「それ」と、店員さんがテーブルの上を指さす。
それって……、ええと。
これ、おつまみですよね。
しかも、どう見ても市販品を袋から出しただけ。
急に不安になってきた。
これだけでとんでもない金額を請求されたりして。
もしかして、ピンクエプロンは、客を油断させるためとか。
奥の方に、別の怖いお兄さんとかいませんよね。
「ああ、お客さん?」
珠暖簾をじゃらじゃら鳴らしながら顔を出した店主を見て、私はまた固まってしまった。
背が高くてつるりとした肌のお兄さんなのに、なぜかエプロンがピンクなのだ。
「どうぞ、遠慮なく上がってください。寒いでしょう。炬燵にどうぞ」
結構声は低めで、まつげの長い目で見つめられるとなんだか抱きしめられたようにドキドキしてしまう。
私は誘われるまま上がり込んでいた。
「今お酒とお通し出しますね」
「あの、お酒は……」
食事だけでいいんだけどな。
「一杯だけサービスしておきますから」
ああ、そうなんだ。
じゃあ、遠慮なく。
炬燵に足を入れたところで、手に収まるぐらいの青みがかったグラスに焼酎のお湯割りが八分目まで注がれて差し出された。
グラスには金や銀の粉が封じ込めてあって、まるで星空のように輝いている。
こんな都会の谷間は暗く沈んでるくせに星空なんて見えないのにね。
ふう。
ため息なのか、肩の力が抜けたのか、自分でもよく分からない。
「あったまるでしょう」
「ええ。いいグラスですね」
「北海道で工房を開いた職人さんの物です」
「へえ、手作りなんですか。こういうのでいただくと、お酒も五割増しくらいで味わい深くなりますよね」
いったん奥に引っ込んだピンクエプロンの店員さんがすぐに戻ってきた。
「とりあえず、こちらをどうぞ」
笑顔とともに差し出されたのはポテトチップスとさきイカだ。
乾き物か。
これがお通しってことね。
「食事は何があるんですか?」
「うちはね、あるものしかないんですよ」
はあ?
「じゃあ、なにがあるんですか」
「それ」と、店員さんがテーブルの上を指さす。
それって……、ええと。
これ、おつまみですよね。
しかも、どう見ても市販品を袋から出しただけ。
急に不安になってきた。
これだけでとんでもない金額を請求されたりして。
もしかして、ピンクエプロンは、客を油断させるためとか。
奥の方に、別の怖いお兄さんとかいませんよね。