土日の休日や夏休みなどの長期休みは漫画ファンのお客様が来ることが多い。大学生や社会人をはじめ、親子連れで来る場合もある。夜の営業が始まると、親子でファンです、なんていいながら、母親や父親のほうがファンだったケースも多々ある。エイトが描いている漫画は大人が見ても楽しめるし、絵柄はキャラクター性があって女性うけもいい。ビジュアルと話の内容が万人受けで、子どもにもわかりやすいという有能ぶりだ。
エイトを一目見たいということで、かなり遠くからやってきたというお客様もいる。エイトを見たら、写真と握手とサインの三セットは必須となっている。どんなファンに対してもエイトは優しく丁寧に接する。読者様は神様だという精神がどんなに売れても根幹にあるのだろう。原作を離れて、映像化の場合はオリジナルストーリーが作られることもあるし、お菓子やおもちゃにもキャラクターが使われる。作者の手の届かない場所まで作品が広がってしまう。そのあとは、原作者にも触れられない領域に入ってしまうと嘆いていたことは一度あったような気がする。
きっと、もっと作者として作品を支配したいけれど、映画やグッズは他人に任せるしかないし、下手したら原作にいないようなキャラクターが出ることもある。でも、それは、キャラクターが育ったという証拠だとエイトは語っていた。
「あの、水瀬エイト先生っていらっしゃいますか?」
一人の女性客が女性店員のギャル風なサイコに質問した。大きなつばの帽子を目深にかぶり、サングラスをかけている。毛先はカールした長髪の女性だ。変装的な感じなのはあまり人に見られたくないということだろうか? オタクを知られたくないという女性は割といるような気がする。でも、隠しているのにゴージャス感がにじみ出ている。オーラというのだろうか。美人ですという表示が全身からあふれているのだ。こんな美人にまでファンがいるなんて。
「せんせえなら、まだ仕事中。もう少ししたらこっちに来ると思うケド、あんたファン?」
サイコが答える。
「はい。とりあえず、ビールでも飲もうかな。ホットビールなんてあるんですか?」
「珍しいっしょ。冷え症な女性が結構頼んだりするんだよね」
「ホットビールにぶり大根単品をお願いします」
女性が帽子を取ったが、サングラスはつけたままだ。ロングスカートのワンピースが女性らしい印象をさらに上昇させているような気がする。
「仕事終わったぁ。なんか夕飯頼むわ」
二階のほうから仕事を終えたエイトがおりてきた。伸びをしながら、肩のストレッチをはじめる。本当に自由な人だ。それを見た女性が、エイトのほうへ駆け寄りる。
「あの、水瀬エイト先生でしょうか?」
「あぁ、そうだけど」
エイトは女性をじっと見つめる。知り合いではなさそうだ。
女性はサングラスを取ると、大きな美しい瞳をのぞかせた。
「私、先生の大ファンなんです。サインをお願いします」
サイン色紙を準備しているあたり、ガチなファンなのだろう。でも、どこかで見たことがあるような、ないような……。
「もしかして、モデルのセリカさん?」
つい声を出す。エイトはモデルや芸能事情には詳しくないので、芸能人なのか? というような感じで彼女をまじまじと見つめた。
「はい、お忍びでやってきました。先生の作品を読むと、仕事のモチベーションがあがります。常日頃感謝しております」
セリカは話し方も丁寧で上品な人だった。
「こんな美人にファンと言われちゃあ、今日は特別サービスだ」
「先生、噂通りのイケメンですね」
「あぁ? 漫画家にしてはイケメンっていう話か? この程度はどこにでもいるだろ?」
「芸能人でもそんなにいないくらい素敵で、後光がさして見えます」
本当に女性はうれしそうに握手を求めた。そして、記念写真を撮ると、エイトが言ったとおりの特別サービスとして、アイスクリームの天ぷらを出す。アイスを中に入れたまま天ぷら粉で揚げる。冷たさと温かさの融合で、アイスが溶ける前に食べてほしい一品だ。
「珍しいですね」
「珍しいメニューがあると、ここでしか食べられないから来た甲斐があったって思ってもらえるかなっていつも研究してるんでな」
「また、来てもいいですか?」
「もちろん」
モデルは、絶対エイトに惚れているような気がする。絶対そういった目で見ているとしか思えない。
「これ、私の連絡先です。プライベートでお会い出来たらと思います」
憧れのまなざしで女性が名刺を差し出す。ナナの心臓はドキドキする。エイトは美人のモデルにひとめぼれしてしまうのではないかと本当に心臓が落ち着かない。心が波打ちざわざわする。
「ありがとう。でも、受け取ったとしても連絡しない主義だから受け取れない。ファンだという気持ちはうれしいし、これからも店に来てくれ」
あまりにもあっさりエイトが名刺を受け取らなかったのは私が見ていたから?
でも、彼は元々まっすぐで一途で、外見で人を判断する人じゃなかったってことを思い出す。
セリカは本当に残念そうに名刺をしまう。結局、注文した料理を食べて、漫画について熱く語っていった。この人の気持ちを支えている漫画を描いているエイトはすごいな。人を動かす力を秘めた物語って尊い。簡単にできることではない。ナナは改めて、彼のことを尊敬した。
エイトを一目見たいということで、かなり遠くからやってきたというお客様もいる。エイトを見たら、写真と握手とサインの三セットは必須となっている。どんなファンに対してもエイトは優しく丁寧に接する。読者様は神様だという精神がどんなに売れても根幹にあるのだろう。原作を離れて、映像化の場合はオリジナルストーリーが作られることもあるし、お菓子やおもちゃにもキャラクターが使われる。作者の手の届かない場所まで作品が広がってしまう。そのあとは、原作者にも触れられない領域に入ってしまうと嘆いていたことは一度あったような気がする。
きっと、もっと作者として作品を支配したいけれど、映画やグッズは他人に任せるしかないし、下手したら原作にいないようなキャラクターが出ることもある。でも、それは、キャラクターが育ったという証拠だとエイトは語っていた。
「あの、水瀬エイト先生っていらっしゃいますか?」
一人の女性客が女性店員のギャル風なサイコに質問した。大きなつばの帽子を目深にかぶり、サングラスをかけている。毛先はカールした長髪の女性だ。変装的な感じなのはあまり人に見られたくないということだろうか? オタクを知られたくないという女性は割といるような気がする。でも、隠しているのにゴージャス感がにじみ出ている。オーラというのだろうか。美人ですという表示が全身からあふれているのだ。こんな美人にまでファンがいるなんて。
「せんせえなら、まだ仕事中。もう少ししたらこっちに来ると思うケド、あんたファン?」
サイコが答える。
「はい。とりあえず、ビールでも飲もうかな。ホットビールなんてあるんですか?」
「珍しいっしょ。冷え症な女性が結構頼んだりするんだよね」
「ホットビールにぶり大根単品をお願いします」
女性が帽子を取ったが、サングラスはつけたままだ。ロングスカートのワンピースが女性らしい印象をさらに上昇させているような気がする。
「仕事終わったぁ。なんか夕飯頼むわ」
二階のほうから仕事を終えたエイトがおりてきた。伸びをしながら、肩のストレッチをはじめる。本当に自由な人だ。それを見た女性が、エイトのほうへ駆け寄りる。
「あの、水瀬エイト先生でしょうか?」
「あぁ、そうだけど」
エイトは女性をじっと見つめる。知り合いではなさそうだ。
女性はサングラスを取ると、大きな美しい瞳をのぞかせた。
「私、先生の大ファンなんです。サインをお願いします」
サイン色紙を準備しているあたり、ガチなファンなのだろう。でも、どこかで見たことがあるような、ないような……。
「もしかして、モデルのセリカさん?」
つい声を出す。エイトはモデルや芸能事情には詳しくないので、芸能人なのか? というような感じで彼女をまじまじと見つめた。
「はい、お忍びでやってきました。先生の作品を読むと、仕事のモチベーションがあがります。常日頃感謝しております」
セリカは話し方も丁寧で上品な人だった。
「こんな美人にファンと言われちゃあ、今日は特別サービスだ」
「先生、噂通りのイケメンですね」
「あぁ? 漫画家にしてはイケメンっていう話か? この程度はどこにでもいるだろ?」
「芸能人でもそんなにいないくらい素敵で、後光がさして見えます」
本当に女性はうれしそうに握手を求めた。そして、記念写真を撮ると、エイトが言ったとおりの特別サービスとして、アイスクリームの天ぷらを出す。アイスを中に入れたまま天ぷら粉で揚げる。冷たさと温かさの融合で、アイスが溶ける前に食べてほしい一品だ。
「珍しいですね」
「珍しいメニューがあると、ここでしか食べられないから来た甲斐があったって思ってもらえるかなっていつも研究してるんでな」
「また、来てもいいですか?」
「もちろん」
モデルは、絶対エイトに惚れているような気がする。絶対そういった目で見ているとしか思えない。
「これ、私の連絡先です。プライベートでお会い出来たらと思います」
憧れのまなざしで女性が名刺を差し出す。ナナの心臓はドキドキする。エイトは美人のモデルにひとめぼれしてしまうのではないかと本当に心臓が落ち着かない。心が波打ちざわざわする。
「ありがとう。でも、受け取ったとしても連絡しない主義だから受け取れない。ファンだという気持ちはうれしいし、これからも店に来てくれ」
あまりにもあっさりエイトが名刺を受け取らなかったのは私が見ていたから?
でも、彼は元々まっすぐで一途で、外見で人を判断する人じゃなかったってことを思い出す。
セリカは本当に残念そうに名刺をしまう。結局、注文した料理を食べて、漫画について熱く語っていった。この人の気持ちを支えている漫画を描いているエイトはすごいな。人を動かす力を秘めた物語って尊い。簡単にできることではない。ナナは改めて、彼のことを尊敬した。