チラシの効果もあり、問い合わせが少しずつ増えてきた。ネットのほうをみて問い合わせて来た人もいたようだ。申し込みは今のところ常連の小学生のゆらちゃんとそのお友達がひとり。そして、親が店をやっていて、休日は一人で過ごしているという近所の空君。空君の親御さんとは同じ町の商店街での顔見知りなので、申し込みは顔パスみたいな感じだ。
その他参加予定なのが、塾通いで忙しい秀才君。秀才君というのはあだ名ではなく、本名だということだ。秀才君は自分から申し込んできた。塾帰りに隣町に帰宅する途中、子ども食堂のチラシを見たとのことだ。お金はもらっているけれど、親はとても忙しく、塾の自習室で勉強していることが多く、一人ぼっちは寂しいのかもしれない。自ら人のぬくもりを求めて行動できる秀才君はとても人間らしいのかもしれない。見た目はメガネをかけていて、とても真面目そう。なんとなくパソコンとかIT機器に詳しそうで、見た目は冷静でクールな印象だ。でも、自らここへ足を踏み入れる彼は、実は温かい人なのかもしれない。
申し込み一覧を見る。主に小学生が多い。
「こども食堂って中学生でもいいんですか?」
知らない中学生が二人やってきた。男女二人でとても仲がよさそうだ。女子のほうは少しやせ形で色白だ。髪が長いけれど、あまり手入れしているような感じはしない。男子のほうは短髪の元気なスポーツマンタイプで小麦色に日焼けをしていて健康的だ。
「もちろん。申し込みしますか? こちらに名前と電話番号を書いてね」
「どんな食事がでるんですか?」
「第一回目はカレーの予定だけど。毎週違うんだよね。初回申し込みでいい?」
「実は、彼女の家は複雑な事情があって、子ども食堂を利用出来たら助かるなって思うんですよ」
「もしかして、親がひどい奴なの?」
「母が病気で寝てばかりの状態で、おいしいご飯を家で食べることは難しいの」
「だから、俺の家で一緒に飯を食べたりしているんだけどね。高校になったら給食がなくなると厳しいよな」
「うち、貧しいからあまりお金をかけて料理をしたりは難しいんだよね」
「もしよかったら、うちで余った食材をあげてもかまわないぞ」
エイトがいいタイミングにやってくる。
「定食屋だから、作り置きしているものが余ることもあるし、食材も使いきれないときもある。そして、この商店街には余りものがたくさんある。例えば、パン屋では食パンの耳が余るし、野菜や肉や魚は売れなければ古くなる。見切り品として店頭に置いても、売れ残れば捨てるしかない。大手チェーンだと処分するしかないが、個人の店ならば店主の判断次第で分け与えることも可能だ。俺はこの辺の店長とは顔見知りだから、お願いすることはできるよ」
「よかったな。やっぱり水瀬エイト先生は神様だな」
少年は拝むように手を合わせる。
「本当にありがとうございます」
少女も深々とお辞儀をする。
「君たちは恋人同士?」
エイトがさらりと聞く。
「違いますよ。ただの友達です」
ふーんという感じで腕を組むエイトは二人を見つめる。ただの友達というワードに対して疑っているかのような笑顔だ。その視線を感じて、二人は恥ずかしそうに目を逸らす。
「名前を書いてね」
ナナが促すと、少年はボールペンを握り整ったきれいな字を書く。緑屋彩太《みどりやさいた》というらしい。少年は彼女の分もついでに書く。彼女の名前は清野咲《きよのさき》らしい。
「お母さんは、どういった病気なんだ?」
エイトが遠慮なく聞く。
「心の病気です。私が小さい時に病気になって、ここ最近は寝てばかりなんです」
「お父さんは?」
「家出したので、帰ってきません」
「なるほどな。お父さんのことは好きか?」
「お父さんは良い人だったと思います。でも、小学生の時に突然いなくなったんです。もし、可能ならばお父さんと暮らしたいって思っています。お母さんと一緒に生活するのには疲れてしまって……」
「咲のお母さんはとんでもなくヒステリーで二面性があるんだ。学校の担任には優しい体が弱い母親を演じている。でも、娘の目の前では罵りがひどい。咲がかわいそうだよ」
彩太は同情する。
「俺が咲を支えなければ、彼女はつぶれてしまうと思うんだ」
「咲ちゃんが大事なんだな。俺たちは怨みを晴らす仕事をしている。相手の素性を調べることも可能だよ。咲ちゃんのお父さんを探して今何をしているのかを調べてみようか」
「それってもしかして、噂の命の半分を差し出すっていう話?」
少し警戒しているようだ。
「怨みを晴らさないなら、命をいただけないよ。子ども食堂の手伝いをしてくれるのなら、お父さんを探して説得してみようか? 探し出しても必ずうまくいく保証はないけれどね」
「おねがいします」
咲がお辞儀をする。お父さんを怨んでいる様子はない。むしろお母さんのことを嫌っているような感じだ。未成年の子供というのは親を選べない。そして、まだ自立ができないから、どんなに不満があっても帰るべき場所は自分の親の元だ。仕方のないことだが、今の日本では逃げるということは難しい。大人になれば自立ができるのに……。ナナは、保護者と呼べる人間はエイトしかいない。でも、まだ保護者なしで生きるには早い年齢だ。そして、エイトに対して不満はない。そして、今の生活がわりと好きだったりする。自分自身は親に対してマイナスのイメージはないけれど、マイナスのイメージで埋め尽くされている子供がいるとしたら……エイトは少しでも力になりたいのかもしれない。
「樹、今日余っている食べ物があったらこの娘さんにわけてあげてくれ」
「了解です」
樹は笑顔で何かを準備している。
「一緒にいい方向に行けたらいいな。彩太君も、咲ちゃんも」
二人は笑顔で見つめあう。結構いい感じなんじゃないかな。多分、二人は恋愛感情があるけれど、いい意味で支え合える同級生でもある。この距離がいいのかもしれない。ふと、エイトを見る。エイトとの距離は今の距離が一番心地いいと感じる。
変に父親面をするわけでもなく、友達にしてはちょっと年上で、兄とは言っても最近知り合った仲で。普通ではないこの家族としての距離がとっても居心地がいい。
一般的ではない関係だけれど、エイトはいつもまっすぐで人のためになることをやろうとする。そして、仕事に対して真摯だ。半妖としても彼の考えはぶれることがない。いつも真剣に仕事をこなす態度はどの人よりも真面目なのかもしれない。知れば知るほど人間としてとても良い人だということがわかる。最初見た時の怖そうでちゃらちゃらした第一印象とは全然違う。人の内面を知ることはとても大事だと思える。
「じゃあ今日はお父さんのことを調査しておくよ。接触して、咲ちゃんの現在の状況を話してみる。そして、今のお父さんの状況を聞いて咲ちゃんに会えるのならばセッティングするから」
「出ていったということは、もう私には会いたくないんじゃないかな」
「色々事情があるのかもしれない。本人しかわからないことってあるからね。娘のことは忘れることはないのだから」
少し不安げな咲ちゃんの手をにぎる彩太君は本当に咲ちゃんのことを思っているのだと思う。ナナはそんな経験は一度もない。今現在だってナナを好きだと言って来る男子がいるわけでもなく、好きな人がいるわけでもない。まぁ、あえて言うのならば樹の笑顔に癒されるとか、エイトの寝顔は案外かわいいとかそういったことでどきりとすることはあるけれど。しかし、これは心の奥底にしまっておく案件だ。エイトに知られたら、からかってくるに違いない。弱みを見せることはありえない。
その他参加予定なのが、塾通いで忙しい秀才君。秀才君というのはあだ名ではなく、本名だということだ。秀才君は自分から申し込んできた。塾帰りに隣町に帰宅する途中、子ども食堂のチラシを見たとのことだ。お金はもらっているけれど、親はとても忙しく、塾の自習室で勉強していることが多く、一人ぼっちは寂しいのかもしれない。自ら人のぬくもりを求めて行動できる秀才君はとても人間らしいのかもしれない。見た目はメガネをかけていて、とても真面目そう。なんとなくパソコンとかIT機器に詳しそうで、見た目は冷静でクールな印象だ。でも、自らここへ足を踏み入れる彼は、実は温かい人なのかもしれない。
申し込み一覧を見る。主に小学生が多い。
「こども食堂って中学生でもいいんですか?」
知らない中学生が二人やってきた。男女二人でとても仲がよさそうだ。女子のほうは少しやせ形で色白だ。髪が長いけれど、あまり手入れしているような感じはしない。男子のほうは短髪の元気なスポーツマンタイプで小麦色に日焼けをしていて健康的だ。
「もちろん。申し込みしますか? こちらに名前と電話番号を書いてね」
「どんな食事がでるんですか?」
「第一回目はカレーの予定だけど。毎週違うんだよね。初回申し込みでいい?」
「実は、彼女の家は複雑な事情があって、子ども食堂を利用出来たら助かるなって思うんですよ」
「もしかして、親がひどい奴なの?」
「母が病気で寝てばかりの状態で、おいしいご飯を家で食べることは難しいの」
「だから、俺の家で一緒に飯を食べたりしているんだけどね。高校になったら給食がなくなると厳しいよな」
「うち、貧しいからあまりお金をかけて料理をしたりは難しいんだよね」
「もしよかったら、うちで余った食材をあげてもかまわないぞ」
エイトがいいタイミングにやってくる。
「定食屋だから、作り置きしているものが余ることもあるし、食材も使いきれないときもある。そして、この商店街には余りものがたくさんある。例えば、パン屋では食パンの耳が余るし、野菜や肉や魚は売れなければ古くなる。見切り品として店頭に置いても、売れ残れば捨てるしかない。大手チェーンだと処分するしかないが、個人の店ならば店主の判断次第で分け与えることも可能だ。俺はこの辺の店長とは顔見知りだから、お願いすることはできるよ」
「よかったな。やっぱり水瀬エイト先生は神様だな」
少年は拝むように手を合わせる。
「本当にありがとうございます」
少女も深々とお辞儀をする。
「君たちは恋人同士?」
エイトがさらりと聞く。
「違いますよ。ただの友達です」
ふーんという感じで腕を組むエイトは二人を見つめる。ただの友達というワードに対して疑っているかのような笑顔だ。その視線を感じて、二人は恥ずかしそうに目を逸らす。
「名前を書いてね」
ナナが促すと、少年はボールペンを握り整ったきれいな字を書く。緑屋彩太《みどりやさいた》というらしい。少年は彼女の分もついでに書く。彼女の名前は清野咲《きよのさき》らしい。
「お母さんは、どういった病気なんだ?」
エイトが遠慮なく聞く。
「心の病気です。私が小さい時に病気になって、ここ最近は寝てばかりなんです」
「お父さんは?」
「家出したので、帰ってきません」
「なるほどな。お父さんのことは好きか?」
「お父さんは良い人だったと思います。でも、小学生の時に突然いなくなったんです。もし、可能ならばお父さんと暮らしたいって思っています。お母さんと一緒に生活するのには疲れてしまって……」
「咲のお母さんはとんでもなくヒステリーで二面性があるんだ。学校の担任には優しい体が弱い母親を演じている。でも、娘の目の前では罵りがひどい。咲がかわいそうだよ」
彩太は同情する。
「俺が咲を支えなければ、彼女はつぶれてしまうと思うんだ」
「咲ちゃんが大事なんだな。俺たちは怨みを晴らす仕事をしている。相手の素性を調べることも可能だよ。咲ちゃんのお父さんを探して今何をしているのかを調べてみようか」
「それってもしかして、噂の命の半分を差し出すっていう話?」
少し警戒しているようだ。
「怨みを晴らさないなら、命をいただけないよ。子ども食堂の手伝いをしてくれるのなら、お父さんを探して説得してみようか? 探し出しても必ずうまくいく保証はないけれどね」
「おねがいします」
咲がお辞儀をする。お父さんを怨んでいる様子はない。むしろお母さんのことを嫌っているような感じだ。未成年の子供というのは親を選べない。そして、まだ自立ができないから、どんなに不満があっても帰るべき場所は自分の親の元だ。仕方のないことだが、今の日本では逃げるということは難しい。大人になれば自立ができるのに……。ナナは、保護者と呼べる人間はエイトしかいない。でも、まだ保護者なしで生きるには早い年齢だ。そして、エイトに対して不満はない。そして、今の生活がわりと好きだったりする。自分自身は親に対してマイナスのイメージはないけれど、マイナスのイメージで埋め尽くされている子供がいるとしたら……エイトは少しでも力になりたいのかもしれない。
「樹、今日余っている食べ物があったらこの娘さんにわけてあげてくれ」
「了解です」
樹は笑顔で何かを準備している。
「一緒にいい方向に行けたらいいな。彩太君も、咲ちゃんも」
二人は笑顔で見つめあう。結構いい感じなんじゃないかな。多分、二人は恋愛感情があるけれど、いい意味で支え合える同級生でもある。この距離がいいのかもしれない。ふと、エイトを見る。エイトとの距離は今の距離が一番心地いいと感じる。
変に父親面をするわけでもなく、友達にしてはちょっと年上で、兄とは言っても最近知り合った仲で。普通ではないこの家族としての距離がとっても居心地がいい。
一般的ではない関係だけれど、エイトはいつもまっすぐで人のためになることをやろうとする。そして、仕事に対して真摯だ。半妖としても彼の考えはぶれることがない。いつも真剣に仕事をこなす態度はどの人よりも真面目なのかもしれない。知れば知るほど人間としてとても良い人だということがわかる。最初見た時の怖そうでちゃらちゃらした第一印象とは全然違う。人の内面を知ることはとても大事だと思える。
「じゃあ今日はお父さんのことを調査しておくよ。接触して、咲ちゃんの現在の状況を話してみる。そして、今のお父さんの状況を聞いて咲ちゃんに会えるのならばセッティングするから」
「出ていったということは、もう私には会いたくないんじゃないかな」
「色々事情があるのかもしれない。本人しかわからないことってあるからね。娘のことは忘れることはないのだから」
少し不安げな咲ちゃんの手をにぎる彩太君は本当に咲ちゃんのことを思っているのだと思う。ナナはそんな経験は一度もない。今現在だってナナを好きだと言って来る男子がいるわけでもなく、好きな人がいるわけでもない。まぁ、あえて言うのならば樹の笑顔に癒されるとか、エイトの寝顔は案外かわいいとかそういったことでどきりとすることはあるけれど。しかし、これは心の奥底にしまっておく案件だ。エイトに知られたら、からかってくるに違いない。弱みを見せることはありえない。