真っ暗闇だ。目の前にあるは、黒、黒、黒。押し寄せるような無数の黒が、わけのわからない音を発して責め立てる。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。近寄るな、触るな、話しかけるなっ。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 何を嫌がり、何に向かって吠え、誰に対して謝っているのか。自分でも訳が分からない。とにかく、もう何も聞きたくない。

 拒絶して直ぐに、耳は全ての音を遮断する。シンと冷え切った感情。ぼんやりとした脳内。時折体に触れるものは、小刻みに震えていて冷たい。なのに、導かれるように握られた手のあたたかさに僕は涙した――――。