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 義父さんは尊敬に値する人間だった。

 科学者という視点から考えてみると、人の努力を嘲笑う発想力、溜息が出るほど柔軟な思考、目を見張る研究への熱意、義父さんはまさに天才と呼ぶに相応しい人だった。あたしにはないものを、あたしが憧れるものを彼はすべてその手に持っていた。

 同じ科学者を志すあたしは、義父さんには追いつけないと思った。だからただ憧れ、嫉妬に心を乱すこともなかった。あたしができないことは義父さんが全部叶えてくれる。わたしにとって義父さんはヒーローだった。

 義父さんならなんでもできると信じて疑わなかったあたしが「魔法を使えるようになりたい」なんて、非科学的なことをお願いしたのは小学校五年生のときだ。

 だけど今でも、

 ――もう少し待ってくれ。昔の失敗を元に、まだ実験途中なんだ―― 

 そう言って笑った義父さんの表情が夢に出るほど怖くて、忘れられない。
 
 それから二年後の秋、義父さんが十年以上前に試みたという実験の内容を知った。

 そう、恋人に対して行った非道と、結果生まれた三人の子どものことを。

 義父さんへの失望はあたしの活力になった。捻くれていても人に引かれようとも、それが一つの事実として存在しているからこそ、科学者として高みを目指す今のあたしがいる。義父さんが行った取り返しのつかない実験で生まれた子どもたちの能力を無効化することが、あたしが必ず成し遂げなくてはならない当面の目標だ。

 あたしは自力で義父さんの残した実験結果・新条三姉妹を見つけることに成功した。

 当初の計画では、見つけ出した後は時間をかけて能力を無効化する方法を研究しようと思っていたけれど……実際に彼女たちと話したことで、あたしがやってきたことの正しさと浅はかさを思い知った。

 本来しなくてもいい心配を抱えながらも前向きに生きるあの優しくて温かい人たちが、なんの不安もなく生活できるように、少しでも早く能力から解放してやりたいと思った。

 能力の無効化を図る装置を作るのは、あたし一人では相当の時間がかかる。だが、義父さんが協力してくれるなら二分の一以下に短縮して完成が可能だと推測している。

 形振り構っていられないのであれば、あたしはこの身を差し出してでも義父さんを説得してやろうと思う。
 あたしが今後義父さんの手足になるという条件を突きつければ、あの人も合意するだろう。何年も前からあたしに助手になれとアプローチしてきた義父さんだ。あたしが欲しいに違いない。

 現在取り組んでいる研究と実験のために、義父さんが腰を据えているのは青森県だ。少し遠いが、すぐにでも向かって話をつけるとしよう。

 一人では何もできないこの無力感。初めて義父さんの才能に嫉妬してしまいそうになる。

 だがそれもあたしの運命だと受け入れて、未来を捧げてやるとしよう。

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