「綾目、ちょっと来なさい」

 週末の夕方、芳子に呼ばれて階下へ降りた。居間に入ると勝吾も共に座っており、ふたりの仰々しい様子に、ついにここも追い出されるのだろうかと胸が苦しくなる。

「お待たせしました」

 ふたりの正面に、そっと腰を下ろす。こちらから口を開くのは憚られ、うつむきがちに話を待った。

「寄合で、本格的に生贄の儀式を行うことが本決まりになった」
「え?」

 勝吾は今日、昼から村の集まりに出ていた。これは月に一度の頻度で開かれており、議題がなければ集まった人たちで盛大な酒盛りをしている。むしろなにかを話し合われる機会の方が少なく、たいていが飲み食いして終わるようで、勝吾は出席するたびに酔っぱらって帰宅していた。

 チラリと見たところ、今日の彼は素面のようだ。

「梅雨から今に至るまで、まとまった雨が降らないせいで、今年も不作に終わった。さすがにもう限界だ」

 去年も同様だと聞いているが、もしかしてそれ以前も状況は芳しくなかったのかもしれない。

「そこでだ、昭三じいさん主導のもと、生贄の儀式を決行する」

 なんと答えていいのかわからず、小さくうなずき返すだけにとどめる。
 この状況で私だけ呼ばれたからにはなんとなく話が読めて、表情がこわばった。

「昔の記録によると、生贄は生娘に限定されていたそうだ」

 それほど馴染みのない単語だが、さすがに意味は知っている。

「該当する人間はそれほどいない。せいぜい数人だろう」

 そこに公佳が含まれるか彼女の事情など不明だが、間違いなく私は数に入れられているのだろう。

「いろいろな条件から考えて、お前が生贄に選ばれた」
「そう、ですか」

 思った通りの通告だ。

「綾目。これは名誉な話なのよ」

 芳子が白々しい言葉で追随する。
 よそ者ならばちょうどいいとされたのかもしれない。生まれも育ちも村の者でなくてもよいのか疑問だが、口にはしない。

「本番は、二週間後の土曜の夜だ。夕方には集会所へ行って、準備を手伝ってもらえ」
「……わかり、ました」

 話はそれだけだと言われ、自室に戻る。