二十三時を回る頃、ようやく風呂の番になり、音を立てないようにしながら浴室に向かう。

 古い造りのこの家は、脱衣所にカギがついていない。よそ者の私としてはなんとも心細いが、文句を言えるわけもなく、手早く準備をして浴室に入る。

 髪を洗い終えてシャワーを止めると、途端に静寂に包まれる。石鹸を取ろうと手を伸ばしかけたそのとき、カタリと響いた小さな音にビクッと肩が揺れた。慌てて、入るつもりのなかった浴槽に身を沈める。息を凝らして、耳を澄ませた。

 すりガラスの向こうに見える黒い影は、おそらく昭人だろう。初めてそれに気づいたのは少し前になる。私が入浴していると、こうしてそっと脱衣所に忍び込み、なにかをしているようだ。具体的に物がなくなりはしないが、大体の予想ならつく。脱いだ下着も新しく用意したものも、隠すようになったのは言うまでもない。

 浴室の扉を開けられはしないが、それも時間の問題ではないかと、日に日に恐怖心が大きくなっている。

 世話になっている身で贅沢は言えないが、この家のどこにいてもちっとも気は休まらない。それは学校も同様で、唯一ほっとできるのは、帰り道にあの廃れた神社に立ち寄る時間だけだ。

 初めて足を踏み入れて以来、どうにもあの神社が気になって仕方がない。毎回お供えを持っていくわけではないが、手を合わせるのがすっかり日課になっている。

 不思議なことに、行くたびに優しく風が吹き抜けていく。その心地よさも、私が足しげく通う一因だ。
 ガラスのコップの中身は頻繁に取り換えられているようで、清潔さを保っている。訪れる時間帯が違うようで、それをしている人物には一度も出くわしてはいないが、この神社を忘れていない人もいるのだと、なんだかほっとした気持ちになった。