「いらっしゃいませ」

 柔らかな耳心地の良い声に出迎えられて、董子の心臓がトクンと控えめに跳ねる。

「どうぞ。お好きな席へお座りください」

 そうやって席を勧めてきた男は、すらりと背の高い、董子好みの薄顔のイケメンだった。

 黒髪に、やや眦のあがった切れ長の目。形の良い薄い唇。

 目の前の男は、芸能人も含めて、董子が今まで見てきた誰よりも整った顔立ちをしていて。精悍な佇まいに、作務衣の濃紺がよく似合っている。

 どうやら彼が、ここの店主らしい。

「じゃあ、失礼します」

 少し迷ってから、董子はL字型のカウンターの角に座った。

 なんとなく落ち着かずに、おどおどとしていると、店主の男が「どうぞ」と董子の前に竹籠に入ったおしぼりとメニューを置いた。

「あ、ありがとうございます」

 ほどよい温かさのおしぼりを手にとると、董子はさりげなく調理場に視線を巡らせた。

 調理場の棚に並べられた食器は和風の陶器が多く、さまざまな銘柄の日本酒や地方の地酒の瓶がたくさん並べられている。