「おもいで……?」
ぽつり、呟いて、董子はわずかに首を傾げた。
見た目からして和食屋か居酒屋なのだろうが、店先にはメニューの看板も食事のサンプル棚もなく、何が食べられる店なのかわからない。
店の扉を開けるかどうか迷いつつ董子が軽く暖簾に手をかけたとき、なつかしい和風だしの匂いが、ふわっと鼻腔をくすぐった。その匂いに誘われるように董子のお腹がグゥと鳴る。
唇を歪めて苦笑いすると、董子は暖簾をくぐって店の扉に手をかけた。
がらり。
扉を開けて足を踏み入れた店内は、調理場を囲うようにL字型のカウンター席があるだけで、思いのほかこじんまりとしていた。
壁や床に木材を使った店の内装は、和風モダンな雰囲気で趣がある。白熱灯の赤みを帯びた光がカウンター席を柔らかく照らしていて、隠れ家的な雰囲気のある店だ。
だが、店には誰もいない。
勝手に席に座っていいものだろうか。
董子が迷っていると、調理場の出入り口にかけられた紺色の暖簾の向こうから誰か出てきた。