あのときだけではない。董子の考えは、いつだって軽率で甘い。

 浅いため息を吐いて見上げた宵の空には、八日月が浮かんでいる。

 弦の部分がにわかに曲線を描いて見える、白銀色の月。輪郭のくっきりとした月を見つめる董子の頬を、秋の夜風がすっと掠めていった。

 ふと何気なく、風の流れていくほうに顔を向けると、その先にレトロな街灯がポツリポツリとまばらに点いている狭い路地がある。

 橙色の暗い街灯が照らすのは、石畳の道と格子造りや白壁の建物の残る古い街並み。

(こんな通り、あったっけ?)

 董子は、月の光と街灯に照らされた、やたらと趣のある通りをぽかんと見つめた。

 前職を辞めた董子が、心機一転、この町に引っ越してきたのは半年ほど前。

 それ以降、転職活動中、今の職場への通勤時、何度もこの川沿いの道を歩いているのに、こんな昔懐かしさの漂うレトロな通りがあることに気付かなかった。

 その通りは他の通りと比べてあきらかに違っていて、少し目を配れば誰でも気付くような異彩を放っているというのに。

 董子は、住んでいる町の風景すらまともに見えていなかった自分の余裕のなさに苦笑した。