カラリ。

 羽を広げて調理場の裏戸から飛び出して行く迅烏を店主がゆるやかな笑みで送り出すと、表の格子戸が引かれて、スーツの男が店に入ってくる。

「いらっしゃいませ」

 店主が声をかけると、男は店内をきょろきょろ見回しながら、後ろ手に引き戸を閉めた。

「どうぞ。お好きな席へお座りください」

「あ、はい。どうも……」

 遠慮がちにカウンターに歩み寄ってくる男を菫色の瞳で静かに見つめながら、店主は白紙のメニューを差し出した。

《Fin》