「迅烏、次のお客がやってくるぞ」

 物思いに耽る迅烏に、店主が声をかける。

「……、トマトが必要かもしれない。すぐに調達を頼めるか?」

 店主のさりげない注文に、迅烏は大きく目を見開いた。

「私は今帰ってきたところですよ。肉も野菜もたくさん調達してきたでしょう」

「そうだが、トマトを頼み忘れた。それから、卵も足りない」

「なんですか、それは。人を使うのなら、正しく命じてください」

「以後、気をつけるが……。とにかく今は、トマトだ。それから、産みたての鶏の卵も頼みたい」

「は? 産みたてですか……?」

 宵の刻に、無茶なことを言い始めた主に、迅烏は顔を歪める。

「お前は風よりも速く飛べるから、海の向こうまで行っても一瞬で戻って来られるだろう?」

 店主が切れ長の目を細めて訊ねると、「まあ、そうですが……」と迅烏がまんざらでもなさそうに頷く。

「仕方ないですね。縁様のご命令とあらば、行ってまいります」

「ああ、頼む」