「ところで、今宵こそは彼の方の情報を得られましたか?」

「いや……」

「それでは、今宵もまた何の得にもならない人助けを?」

「何の得にもならないというようなことはないぞ。今夜のお客も、思い出の料理を食べて、ずっと胸にあった心残りを少し消して帰って行った」

 苦笑いを浮かべる店主に、迅烏が呆れたようにため息を吐く。

「あなた様はなんとも、人が良いというか……。まあ、実際のところ、人ではないですが。誰かれ構わず引き寄せすぎです」

 店主が食材を片付けるために背を向けると、迅烏が小言を述べながら後ろを着いてくる。

「あれからもう、千年以上も時が過ぎております。私たちにとってはさほどの年月ではなくとも、人の世界では途方もない年月です。それでもまだ、彼の方の言葉を信じて待つおつもりですか?」

 眦をつり上げて、くどくどと諭す迅烏の言葉を、店主は今宵も静かに聞き流す。

 迅烏が小言をこぼすのは、ほとんど毎夜のことなのだ。迅烏は役に立つ仕事をするが、小鳥のように口煩いのが難点だ。

 しつこく追い回してくる迅烏を振り返り、店主は苦笑いで息を吐いた。