「いつも人の言葉に流されてばかりの私が、存在してる意味ってあるんですかね……」

 投げやりにつぶやくと、それまで静かに董子の話を聞いていた店主が「さあ、どうでしょうね」と、少し無責任にも聞こえる言葉を返してくる。

「どうでしょうね……、って。なんですか、それ」

 董子がむっと不機嫌に顔をあげると、店主はカウンターの向こうで急須に湯を注いでいた。

 懺悔を始めたときは、たしかに視線を感じたはずなのに、今の店主は董子を少しも見ていない。

 そのことに、わずかに憤りを感じた。

 心のどこかで、董子は期待していたのだ。

 温かい料理を出してくれた店主が、甘やかな優しい笑みで董子に慰めの言葉をくれるのを。それなのに期待が外れて、董子は自分勝手にも、少し怒っている。

「ごめんなさい。あなたにはどうでもいい、退屈な話でしたね」

 ツンとした声で言うと、すっかり冷めてしまった肉じゃがと豚汁の残りをパクパクと食べる。

「ごちそうさまです。いくらですか?」

 バンッとカウンターを叩いて立ち上がろうとすると、董子の前にすっと湯呑みが出てきた。

「精算しますので、よければどうぞ」

 客が不機嫌を露わにしているというのに、菫色の目を細める店主の仕草はマイペースだ。

 店主の言動に勝手に期待して勝手に不機嫌になっていた董子は、自分の幼さが露見されたような気がして、浮かしかけた腰をそろそろとおろす。

 出された湯呑みを両手に包み、火傷しそうなほどに熱いお茶を少しずつ啜っていると、店主が董子の前に伝票を置いた。それに反応して董子が顔をあげると、店主の菫色の瞳とカウンターの上で視線が交わった。

 暖色の灯りに照らされた店主の美しい顔を見つめていると、彼が眦を下げて甘やかに微笑む。