董子の恋人は商社に勤めている5つ年上の男で、メンズも取り扱っている董子の店にときどき買い物に来てくれていた客だった。

 人当たりのよい爽やかな雰囲気の人で、董子の接客を気に入って、店に来るたびに声をかけてくれていた。

 あるときの接客中、董子と彼が偶然同じアーティストが好きだということがわかって。董子が取り逃がしたライブのチケットを一枚譲ってもらえることになり、彼と連絡先を交換した。

 店の客だった彼とのプライベートな関わりが始まったのはそこからだ。

 一緒に好きなアーティストのライブに行ったり、ふたりで何度か食事をしたあとに、彼から「付き合おっか」と言われた。

 言い方は軽かったが、董子はそれを彼からの純粋な好意だと疑いもしなかった。

 けれど付き合い始めて何ヶ月かが経ったとき、董子は彼がラインで他の女性と親密そうなラインのやりとりをしているのを見てしまった。

 董子が問い詰めると、彼が困り顔で白状した。

「実は、結婚してる」

 彼の告白に、董子は目の前が真っ暗になった。

 彼から真実を知らされたそのときに、キッパリと別れるべきだった。

 けれど、騙されていたことに対する怒りよりも、悲しみや切なさのほうが大きくて。董子は「それでも一緒にいたい」と、彼に縋りついて泣いてしまった。

 真実を知ったときにはもう、董子は彼のことを手放したくないと思うくらいに好きになっていたのだ。