(やっぱり、来れなくなったのかな……)

 董子はため息を吐くと、立ち上がって冷蔵庫からワインを取り出した。

 恋人が来たら一緒に飲むつもりだったが、いつ来るのかもわからない彼のことを待ちきれない。

 ワインの蓋を開けてグラスに注ぐと、董子はそれを一気に喉に流し込んだ。

 アルコールの刺激で、喉の奥が、胸が、かぁーっと熱くなる。続けてもう一杯飲もうとしたとき、机に伏せて置いていたスマホが鳴った。

 飛びつくようにスマホを手に取って画面のロックを解除した董子だったが、恋人から届いたメッセージを見てがっくりと肩を落とす。

《やっぱり行けなくなった》

「また……?」

 謝罪もなければ、言い訳もない。そっけないメッセージに、董子の気持ちはモヤモヤとした。

 恋人とは一年くらい付き合っているが、付き合い始めた当初から約束をドタキャンされることが多い。

 何も知らなかった董子は、最初こそ、約束を守らない恋人のことを責めていた。

 だが、最近はちゃんとわかっている。彼がどうして董子との約束をしょっちゅうドタキャンするのかを。わかっていて、董子は彼と別れることができないでいる。