《今日、会えるかな。もうすぐ仕事が終わるから、いつもよりゆっくり一緒にいられそう。董子の家に行っていい?》
彼とは毎日一回以上はメッセージのやりとりをしているが、頻繁には会えない。それに、董子のほうからは積極的に「会おう」と誘えない。誘っても、彼が応えられないことが多いからだ。
この前彼と会ったのは、二週間前。場所は董子の家で、たったの二時間。
ひさしぶりに会ったというのに、ろくな会話もできず……。彼は短い時間で董子と肌を重ねて、その後の余韻に浸ることもなく、忙しなく帰って行った。
そんな彼が、今夜はいつもよりもゆっくり一緒にいられると言う。
母には家に帰ると約束したが、突然の恋人からの誘いに董子の心が揺れた。
母が病院の検査に行くのは明日の午後。董子の家から実家までは電車で約一時間半。
(今夜急いで帰らなくても、明日の朝早くに帰ればいいんじゃ……)
母との約束と恋人からの誘い。
董子が迷っていると、また恋人からのラインが届いた。
《急だから会うのは難しいかな。俺は少しでも会いたいけど》
そのメッセージを読んだ瞬間、揺れていた気持ちが大きく恋人のほうに傾く。
《私も会いたい。今から帰るから、家で待ってる》
恋人に急いで返事をしてから、董子は母にもラインを送った。