今からちょうど一年前のこと。ふだんはラインでしかやり取りしない母が、めずらしく董子に電話をかけてきた。

「お母さん、今週の金曜に病院で検査を受けることになったの」

 今まで大病をしたこともなく、滅多に風邪をひかない母からの突然の報告に、董子の胸はざわついた。

「検査って、なんの検査?」

「実はね、この頃あんまり体調が良くないの。ひどくめまいがしたり、手足が痺れたり」

「え、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。でもいちおう、董子にも報告だけはしておこうと思って」

 そう言って、母が「じゃあ」とあっさり電話を切ろうとするものだから、董子のほうが慌ててしまった。

「ちょ、ちょっと待って。じゃあ、じゃないでしょう。検査って金曜日の何時からなの? 付き添いは?」

 早口で訊ねる董子の耳に、母の呑気な笑い声が届く。

「予約時間は13時頃だったと思う。付き添いならお父さんがしてくれるし」

「お父さん、仕事は?」

「いいって言ったんだけどね。その日は、おやすみとるって」

 母はそう言うが、董子はなんだか妙な胸騒ぎがして落ち着かなかった。