少し不思議に思いながらも、箸を手にとる。

 レンコンのきんぴらがちょこんと品良く盛り付けられた小鉢は上部が花形になっていて、董子の実家にあった小鉢によく似ていた。

(そういえば、お母さん、きんぴらもよく作ってたな)

 なつかしさに、ふっと口元を緩めつつ、きんぴらに箸を伸ばす。

 個人で野菜作りをしている母方の祖父が直売所や道の駅に売れない野菜を定期的に送ってきていたこともあり、董子の家では野菜を使った和食が食卓に並ぶことが多かった。

 幼稚園や中学で持たされていたお弁当も、野菜を使った和風のおかずが大半を占めていて。

 小学校に上がる前の董子は、『野菜ばっかりじゃなくて、さっちゃんちみたいに、もっとハンバーグやオムライスやパスタが食べたい!』と駄々をこねて母を困らせたことがある。

 そんな董子のために、母は野菜を混ぜたハンバーグやベーコンといっしょに野菜をたっぷり使ったパスタを作ってくれたが、それは友人のさっちゃんから聞いたイメージとは違っていて。董子は盛大に不貞腐れて、やっぱり母を困らせた。

 母には、祖父から段ボールいっぱいに送られてくる野菜を腐らせる前に消費したいという意図があったのだろうが、子どもの頃の董子にはそれがわからなかった。

 けれど、董子は母が作る野菜中心の和食が嫌いだったわけではない。

 祖父が送ってくる野菜はカタチこそ不揃いだったけれど新鮮で美味しかったし、母の作る野菜たっぷりの和食も好きだった。

 母のことを思いながら、お通しのレンコンのきんぴらを口に運ぶ。

 唐辛子のよく効いた甘辛いきんぴらは、母が作ってくれた味とよく似ている。

 シャリシャリとした歯応えのあるレンコンを噛み締めるように味わっていると、舌先にピリッと唐辛子が染みた。

 思わず口元を手で覆うと、食材を切っていた店主が顔を上げて眉尻を下げた。