それにしても。永遠に続きそうな怠惰な、傍に居るだけの主従関係を、男はどう思っているのだろう? それに、大名家の長子なら、もう正室を迎えてもおかしくない年頃だろうに。見たところ笹音よりも年が上のようだから……と、男の前に座り、笹音が今日話す思い出を探していると。

「何を、考えている?」

 繰り返し繰り返し過去語りをさせていた、男の口から先に、疑問が飛び出した。
 真っ先に、応えていた。その質問に。

「あなたの、こと」
「俺のこと?」

 不思議そうに、男が笹音を見る。闇を見据えるような深い漆黒の瞳。
 時間を沈黙に支配されそうになる。すんでのところで男が、鼻で笑う。

「たわけたことを」
「たわけたこと、ですか?」
「ああ。考えてどうするんだ?」
「どうもいたしませぬ」

 ただ、考えていただけじゃないか。どうして鼻で笑われるのだろうと、笹音は心の中に生まれた憤りの炎を表情に灯す。
 苛立ちを隠すことなく、つんとすました笹音の顔を見て、彼女を怒らせたことに気づいた男は、そっと笹音の手に触れる。

「わからんでいい。今は、未だ」

 なぜ、男がそう言ったのか、笹音が知ることになったのは、冬将軍が訪れてからのことで。