その様子を、満足そうに見つめる男。

「あなたのために働いているわけではないわ」
「わかってる」

 夜になればなったで、男の傍に呼ばれ、たわいもない話を徒然と語らされる。
 男が好むのは笹音が宇奈月の城で過ごした思い出話。
 彼女にとってみればもう二度と戻ることのできない甘い過去の話。
 酷だと訴える笹音を、男はそうでないと俺が楽しくないと一蹴する。彼が気に食わないと笹音を手放した瞬間、彼女は殺されても仕方のない人間へ戻る。そうしたら、笹音は拒めない。約束を叶えるため、生き抜く必要があるから。

 だから笹音は語りつづける。
 いや、騙りつづける。
 ただ、大切な約束だけは教えないと心に誓って。

「今宵、姫君は、何を話してくださるのかな?」

 挑まれた男を睨み据えて、微笑み返す。負けるもんか、と。